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「これまでの経過が示す通り、このまま静かに見守っているだけでは、なんの進展もないことは明らかです」
雨の神の客観的な分析に、ドズッと重い響きが応じました。風の神が拳を手のひらに打ちつけたのです。
「あないにふんぎりのつかんやつあ、男じゃなか」
「あらまあ。そんなに気色ばまなくてもお」
やんわりとなだめる太陽の神の腕を押しやり、風の神が進み出ます。
天界から二人を見おろし、風の神はぐうっと胸いっぱいに空気を吸いこみました。頬までがまん丸にふくらんで、額に血管を浮かすほどに力んでいます。
ぷうううううううううううううううう。
突風でサナエの背を押してよろけさせ、ダイスケに抱きつくよう仕向けたのです。
強引にひっつけてしまえば、あとは男と女のこと。そのまま、なるようになるだろう、とまことに荒々しい神のはからいなのでした。
ところがぎっちょん。
サナエはそんじょそこいらの女子とはちがいます。細いくせに、やけに体は頑丈で、足腰にいたっては、大地に根を張る大木の如し。柔道の授業では無敵を誇り、女子柔道部員渾身の大外刈りにビクともしない。風の神渾身の息吹にもビクともしない。
ふわあああああああああああ。
スカートがパラシュートのように開きました。
「み、見えたか?」
素早く手で押さえたサナエは、ダイスケに険しい目をぶっ刺します。前髪のあいだからのぞく眉がとてもりりしい。
「い、いや。見てない」
「そうか。ならいい。で、何色だった?」
「水色に、こまかい白のハート模様」
「めっちゃ見とるやんけー」
気合いの乗った声とともに、くぐもった重い音が天界までとどきました。サナエの右拳がダイスケの腹部を衝き上げた音です。
「おおっと、いい角度でボディに入りやしたねえ」
「タイミングも申し分ありません。男の両足が一瞬、浮きましたね。おそらくは、象をも倒す破壊力なのでしょう。しかし、男のほうもなかなか。しっかりとカバンでガードしているではないですか。しかも、金具で手を痛めないよう、なにもないほうの面で受け止めるとは。思いやりに満ちた防御です。さすがは長年の友」
雨の神は二人の攻防を、つまびらかに解説しました。
「これでは、殿方が告白できないのも、無理がないわ」
太陽の神のあきらめをふくんだ声に、みながうなずき、ため息をつきました。
サナエのあのじゃじゃ馬ぶりでは、男が気後れするのは無理もない、と神さまたちも同情を禁じ得ません。
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