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水滴がダイスケの額に当たりました。あごを上げるとすぐ、頬やまぶたにバチンと大粒の雨がはじけます。
「これ、かなりすごいのがくるんじゃないか」
「むこうの空が真っ黒だよ」
サナエの指さす先には、重い雲が転がって、ゴロゴロと音を立てています。
「うわ、光ったぞ」
「ひゃっ。あたし、雷はダメなんだ。ちょ、ちょっと、ど、ど、どっか、ひ、避難」
サナエの声はふるえています。顔色はなくなり、カチカチと口もとが鳴っているではありませんか。非難と自分で言ったにもかかわらず、足がすくんで動くことができません。
あのサナエが? とダイスケは目を丸くしながらも細い手首をつかんで走り始めました。
「神社の軒下へ」
二人が賽銭箱の奥にある、小さな階段へ転げこむやいなや、ごうっと空気をつき破り太い雨が地面をたたきました。激しくはね返るしぶきで、石畳が白くけぶります。
「間一髪、セーフだったな」
ダイスケがぬれた顔を手の甲でぬぐいます。サナエは髪にのった水滴を払うこともなく、背中を丸め首はすくめたままで、肩越しに空のようすをうかがうのでした。
「あたし、雷こわいんだ。家の中でもこわいのに、こんなむき出しの外だと」
バキッと空気がわれる音を響かせるのと、「ああああああー」と叫んだサナエが頭をかかえるのが同時でした。
「こわいこわいこわいこわいこわい」
「大丈夫だから。ほら、な」
しがみついてきたサナエの背中を、ダイスケの手がやさしくなでます。
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