1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「おお、いい感じだぜ。まさか、あのおてんばが雷に弱いとは。そりゃ、もういっちょう」
「これ、あんなにおびえているんだから、もうおよしなさいって」
太陽の神が、お調子者の肩をたたきます。
「そうかな。うまくひっついてるじゃないかい。もうひと押しで、万々歳ってことになるんじゃないかい?」
「ああまでふるえていては、ホレたハレたの話どころじゃないわよ。女心がわかってないわねえ」
言いあう神々のあいだに、「まあまあ」と雨の神がわって入ります。
「雷さまのおかげで、万全の環境が設定できました。ありがとうございます。あとは私にお任せあれ」
面を伏せ、指先で宙になにかを描きながら両腕をゆったりと広げていく雨の神の姿は、静かな音色に耳をすます指揮者のようです。
土砂降りが、細やかな滴へと変わってゆきました。
「密着する男女。高鳴る鼓動。二人で危機を乗り越えた連帯感。そしてすべてを白くつつみこむロマンチックな雨。ここまでお膳立てが整えば、もはや時間の問題です」
「もうすぐやみそうだ。雷も鳴ってないよ」
「光ってない?」
「うん、大丈夫。雲がすごい勢いで流れていってる」
おそるおそる頭をおこしたサナエは、ぐるぐるうねる雲を視界のはしに収めました。あんなにも暗かった空に、青い切れ目がのぞいています。
ひと安心したのか、強く張っていた肩から、ゆっくりと力がぬけていきました。その落ちた肩には、あたたかな手のひらがのっています。意識を正面にもどしたサナエの目に、いつになく生真面目な幼なじみの顔がうつりました。
「おう。ようやくあの男も覚悟を据えたようじゃの」
「さあ、これで今日も一件落着ですわね」
「長い恋の旅路も終着を迎えました」
「ようし、お祝いに、一発」
やめろ、と止める神々の声をふり切り、雷の神がいらんことをしてしまいます。
勇気をふりしぼり、バクつく心臓の勢いにのせて放った「好きだ」のひと言は、霧雨を切り裂く雷鳴に、無情にもかき消されてしまったのです。
最初のコメントを投稿しよう!