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「おい、どうすんだ。あの根性ナシが、愛の言葉を乙女に捧げたっちゅうのに」
「うへえ、面目ない」
「まったくもう。またやり直しだわ」
「仕方がない。過ぎてしまったことです。われわれみなで力を尽くしましたが、今日は目標達成となりませんでした。ひとまずは見送りですね。あの両名のことは、今後の最重要課題ということで」
「せめてぬれぬよう、帰してあげましょう」
太陽の神が雲の切れ間をついて、光の帯を走らせます。
「あっ」と小さくつぶやき、サナエが宙に視線と指をむけました。
幼なじみの無垢な横顔にあまいときめきを覚えながら、ダイスケもサナエの指の伸びた先へと目をむけます。
冴えた水色のキャンバスいっぱいに、七色の橋が描かれていました。遠い大地を結ぶきれいなアーチ。どこにも欠けのない虹の丸みに、二人は肩をならべて見とれるのでした。
どれほどに時が経ったころでしょうか。「あの」とささやくサナエの声が、沈黙のすき間にすべりこみました。
「ごめん。じつは聞こえてた」
「へ?」
ダイスケは、なにを言われているのか、わからないようすです。
「てれくさくて、聞こえないふりしちゃった。好きって言ってくれて、ありがと……」
力が根こそぎぬけたのか、ダイスケは口をぽかんと開けたまま、動かなくなってしまいました。天界では、神々もぽかんです。
目もとが真っ赤なダイスケ。首すじまで真っ赤なサナエ。
ともに顔が赤いのは、時間いっぱい地上を照らした太陽が、地平線へと沈んでいくからだけではないようです。
わかっていただけましたか。お天気の変わる理由が。
空の景色がうつりゆくのは、神さまたちが迷える二人の背中を押しているからなのですよ。
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