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イキチ 弐
鍼灸師の資格を持ち、自宅で医院を営みそうして家族を養っていた。
親族からの援助もいくらかあったようだ。
視覚障害者と云えば鍼灸師か弦楽器の奏者となるか、数えるほどしかたつきを立てるすべのなかった時代。
仕事でないときは、自室にて煙草をふかしテレビは見られないからラジオを鳴らし、ひたすら点字の本を読むのが好きだったイキチ。
玄関先にはいつも、点字の本の入った箱がいくつも積まれていた。
今ヨニイが思いかえすに、あれは日本全国をめぐる点字の貸本システムだった、となんとなくわかる。
そんなお楽しみのそう広くない部屋で、飛び跳ねはしゃぎまわった当時ちいさな孫、ヨニイとその弟ムソニを迷惑には思わなかった?
ラジオちゃんと聴こえてた?
や。
そうだヨニイは、そのことでイキチに叱られた記憶が全くない。
間接的に母からも祖母からもない。
おぼえているなら、イキチはいつもイイ顔で斜視の目をゆらしていた。
感情の読みとれない目でも、おだやかにゆれていた。
ちなみに、点字とは六つの点を縦みっつ横ふたつで等間隔に並べるパターンを変化させ紙に凹凸をつけた文字で、指先をすべらせ読みとる、視覚障害者用の文字だ。
そう云えばイキチも、読むだけでなく専用のアナログな機器で点字を打って何かしらしたためていた。
誰かへのラブレターだった?
もしかして妻への、音にたくすには照れるような日々のねぎらいとかね。
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