黒いフェイスマスク

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 高校時代に同じ部活仲間だった鞠香から、久しぶりに会いたいとメールをもらった。 「えっでも鞠香、何処で会うの。私いま地元じゃないんだ」  どう考えても1時間はかかる。私が地元に帰れるのって無理して来週末。それを話したら自分が行くと言った。 「私、そっち行くから。ドライブ好きだし」 「中間で落ち合っても良いよ。大変でしょ、ドライブ好きでも1時間は」  でも大丈夫だというので、私は来週の日曜日に予定を入れなかった。  部活仲間だったけれど、そんなに親しい仲間じゃなかった。鞠香はレギュラーに選ばれたりギリだったりの位置。私はと言えば雑務係のサポーターばっかりの3年間。それでも退部しなかったのは砂音(さお)がいてくれたからだった。卒業名簿に名前はない。もう一生会えない子だ。 「奏乃(かなの)、いつもありがと。サポートで一番頑張ってるのって奏乃だよ」  そういえば鞠香は砂音や部員のミスにうるさかった。鞠香がレギュラーになれないと砂音が入る事、イライラした鞠香が砂音のプレーにケチつけたり。色々と思い出した。  砂音のほうが会いたいな。もう一生、会えないからそう思うのかな。鞠香が私に連絡してきたのは予想外。でも、そのきっかけを作ったのは私たち。  私を気にかけてくれた砂音が苦手だった、鞠香と再会する日曜日。駅裏のレトロな珍しい2階建てのカフェ。此処は落ち着ける場所で時々、友人と来る事のあるカフェだ。 「うわぁ久しぶり。卒業して半年しか経っていないのに興奮しちゃって」  鞠香が砂音に冷たくあたった日。泣いていた砂音を知っている私は表面上、久しぶりに会えて嬉しい感じをアピール。手を取り合って笑顔を浮かべる。心に渦巻く黒い気持ちを隠したまま。 「奏乃に相談したくて。奏乃は良くみんなの相談に乗っていたの思い出して。大学であんまり話せる人いなくって。ゴメンね、そんなに時間とらせないからさ」  心の中で、あーハイハイと冷めている自分。まずはオーダー。昼食はお互い済ませてあるのでスイーツをオーダー。 「いいなぁ奏乃。こんな素敵なカフェ知ってるなんて」 「友人が紹介してくれたの」  懐かしい話の大半は部活の話。あとは文化祭の話。  チョコレートパフェを店員が運んで来た。チョコソースのかかったバニラアイスを口に入れてから鞠香が急に表情を曇らせて、バッグの中に手を入れて封筒をテーブルの上に置いた。 「これね先月届いたの。私びっくりして本棚の奥に隠してたの。でも誰かに相談したいって考えてたら奏乃が頭に浮かんで。この差出人の住所と名前見てよ」  鞠香が瞬きするたび黒い睫毛と塗られたマスカラが重たそうに揺れる様を見ていた。砂音はお化粧して街を歩く事すら出来なかったのに、と思いながら。  差出人は鞠香に泣かされた細波砂音(さざなみさお)。 「何で今頃になって砂音から届くのよ。誰かのイタズラだと思うけど。しかもメモが」  私は封筒を開く。中には化粧品のサンプル数点と美容液たっぷりフェイスマスクが数枚。メモには、私が使って良かったので鞠香ちゃんに勧めたくて。他の人には内緒にしてね、と書かれていた。  サンプルの袋はすべて黒、フェイスマスクも黒でパッケージも黒。黒ばかりだけれど、見方を変えればシックでカッコいいと思う。だってこれ私が 送りつけたんだから。 「うーんゴメンね。相談してくれたけど鞠香次第だよね。イタズラだから使いたくないって思えば処分すれば良いし。見たとこ普通のサンプルにしか見えなくはないかな。ゴメン、はっきりどっちとは」 「だよね、最終的には自分だね。ありがとね奏乃。処分かな。パフェ美味しいね」  餡蜜を食べながら微笑んだ。こうやって砂音と会いたかった。もっと話したかった。  鞠香が帰って行った後、私はフルーツパフェをオーダー。餡蜜だけじゃ私のおなかが納得しなかったみたい。洋のデザートも欲した。  スマホで凛吾に連絡。凛吾は砂音の双子の兄だ。私と凛吾は卒業したら砂音の敵討ちを計画していた。サンプル製品は凛吾の担当。 「凛吾、鞠香マジで怯えていたよ。最終的には処分とか言って、でも鞠香の事だから使うと思うよ。あと宜しくね」  私の中で黒い物が渦巻く。きっと鞠香はどれかを使うと思う。夜、暗闇の先の空に向かって呟く。 「砂音、もうすぐ敵討てると思うよ」  翌日、学食に仲間といる時にメール。凛吾と・・・・・・鞠香からだった。凛吾からは絵文字と大成功の文字が届いた。心の中で何度もガッツポーズ。凛吾には偵察をお願いしていた。  鞠香からは黒パックをしている動画が送られて来た。フェイスマスクが取れないらしくパニックになっている。黒いフェイスマスクをつけた鞠香の背後には砂音が立っていて、色白の手でフェイスマスクを押さえつけながら涙を流している。鞠香の叫び声が聞こえる。砂音が見えているのか名前を呼んで謝っている声が聞こえてきた。でもいくら謝っても砂音は帰って来ない。そう思うと画面の砂音をじっと見つめて泣く事しか出来なかった。            (了)
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