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一年後の自分がどうしているかなんて全然分からないし、雨上がりは嫌いだし、私は私のことをあんまり好きではないけれど、きみのことは好きだ。
私が持っていないものをたくさん持っているから、なのかもしれない。
『聞いてほしいことがある』
それってなんだろう。考えすぎて、昨日の夜はあまり眠れなかった。
一年の頃から気軽に話せる仲だったし、もう付き合っちゃえよ、と何度も周囲にからかわれてきた私たちだ。
おこがましいことを考えている自覚はあるけれど、例えば告白されたとして、その瞬間に私たちは今の私たちには戻れなくなる。私がどう返事をするかなんて関係なくて、ただ、今の場所には二度と戻ってこられない。
それよりなら、変えないままのほうがいい気がしていた。
この二年あまり、私からは一度だって気持ちを伝えようとしなかったのも同じ理由だった。でも。
嫌になる。だってもう三年の夏だ。
残り半年程度しかない。今の心地好い距離感で、きみと笑い合っていられる時間は。
焦る。今のままでいいのかな、ここに留まっていていいのかな、そうしているうちに皆は先に行っちゃわないかな、きみも私を置いていっちゃうのかな――考えたくないのに考えてしまう。
自分で選択するしかない時期に差しかかっていることがあれもこれもと多すぎて、怖くて重くて、今にも足が止まってしまいそうになる。
きみは、こういうときどうするんだろう。
なにを選ぶんだろう。どうやって選ぶんだろう。
見てみたい気がする。教えてほしい気もする。
来週の試合の後なんて待っていられない。
教えてほしい。できれば、今すぐ。
昇降口をくぐったばかりの足が、自然と、今来た道を戻り始めてしまう。
外で活動する運動部のかけ声が遠のいて、代わりに体育館の床を鳴らすボールとシューズの音が近くなる。
雨の終わりの匂いがふつりと途絶える。
逸る気持ちを抑えきれず、私は足を大きく前に押し出した。
〈了〉
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