フォーマル

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「何ニヤニヤしているのだ?」その同級生は聞いてきた。そこではじめて尾崎は自分がにやけていることを知ったのであった。 「何でもないよ」少し気分は悪くなったが、彼女のことを考えていると、彼は気分がよかったのだ。  その次の週にバイオリンのレッスンを受けに自宅そばの教室に来た。 「このあいだはどうもありがとうございました」彼女は頭を下げて礼を言って傘を渡してきた。 「いいのに」彼は笑って傘を受けとった。 「私はピアノ科なんだ」彼女はそう言って指を動かした。  ピアノは白い鍵盤と黒い鍵盤があったなと尾崎は思ったのだ。 「ピアノはおしゃれだよね」尾崎は言った。 「おしゃれ?」彼女は少し意外なことを言われた、という顔をしたが、尾崎の考えすぎかもしれなかった。 「白鍵と黒鍵が並んでいて美しい」 「私は黒鍵が好きなんだ」話してみると彼女は高校二年生だそうだ。 「オレは大学に進学したいな」彼は思わず言ってしまった。 「私も英文科を受験したいな」彼女は笑顔から真顔になった。 「それは素晴らしい」 「君は何学部を受けるの?」彼女にたずねられた。 「文学部」彼は答えたのだ。
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