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どうやら彼女はあと少しで亡くなるそうだからフォーマルを買うことにした。
本当は彼の新しいバイオリンを買うための資金にしたかった貯金から崩して、お金を作って服を買った。
黒のフォーマルは何とも悲しいものだが、これを着て彼女と別れるのだと思うと、何だか晴れ着を見ているような錯覚は、彼にはあった。
彼はフォーマルを着たことはなかった。
なぜか親しい人は亡くならなかったので、必要はなかった。
黒なんて色はカラスの色だ、と思っていたがかっこいいとは考えていなかったのだ。
黒か? 黒塗りなんて言葉もあるな、と彼は思いなぜか少し目頭が熱くなってきた。
彼女は恋人ではなかった。矛盾するようだが一番仲のいい女だったのだ。母親や祖母ではなく、姉妹でも伯母でもなかったのだ。
彼女は異性の友達であったのだ。ピュアに友達だったのであった。
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