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 学校からは見えないけど、私たちが住んでいる街からは電車に乗ればすぐに海が見渡せる。 「めっちゃ晴れてる」 「だな」  こうして外へ出るなんて、どれくらいぶりだろう。 観光客に混じって私たちは電車に乗り込んだ。眩しい光が窓から射してきて思わず手をかざすが、昨日から続いているわくわくで口元がすぐに緩んでくる。何より湊と一緒に一日を過ごせることに、私は嬉しさを隠せなかった。 思ったよりも車内が混んできて、その波に押されて私がよろけると、湊は手を伸ばして私を庇うように腕の中に引き寄せた。彼のおかげで両足で立てるスペースに身を置くことが出来たが、いつもより近くで見る彼の横顔に鼓動が速くなった。 「具合悪くなったらすぐ言えよ。降りて休もう」 「うん。ありがとう」  自分を知っている人が隣にいる。それがこんなにも安心するなんて。背中に負われた時と同じ嬉しさがじんわりこみ上げる。 四つ目の駅を越えると右手に海が見えてくる。 いちばん海に近い駅で降りて、乾いた砂だらけの歩道を進むと、早くも潮の香りが届く。陽射しを遮るものが何もなくて、じりじりと温度が上がるのがわかる。日傘を取り出すと湊が差しかけてくれた。 「すげー涼しい。だいぶ違うな」 「最近はメンズも売ってるらしいよ」 「へえ。俺も買おうかな」  私の傘はモノクロだけど、切り替えに花を型どったレースがついている。二人で並んでることも相まって、湊が恥ずかしく思ってなければいいなとちらっと頭を掠めた時だった。 後ろからクラクションを鳴らされ、ドキッとして振り向いた。白のセダンがするりと路肩に寄せてきて、私たちの隣で停まった。 「やっぱ、湊じゃん」 「先輩」  ウインドウを降ろすと、運転席から若い男性が笑いかけてきた。日に焼けて健康そうな青年だった。助手席の男性とも知り合いなのか、湊は軽く拳を合わせている。 「よっちゃん元気?」 「そりゃもう。でも、夏は熱中症が心配で」 「だな。あいつ肝心なこと教えてくれなそう。なに、学校サボってデート?」 「先輩こそ」  湊は意味ありげに笑って後部座席を指差した。男性が一人、女性が二人乗っていた。顔はよく見えなかったが、制服を着ているから高校生? とぼんやり思っていた私の耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。 「うっそ。夏希じゃん」  刹那、一年分の記憶が巻き戻された。小突き回された腕の痛み、罵倒の言葉、そして、あの教室での出来事。 「相変わらず男とつるんでるんだ。好きだねー」  隣の子と、きゃははと笑い声を上げる。私は動けずにただ突っ立っていた。陽射しの強さと彼女の声に気が遠くなりそうだった。湊が私を見つめてるのがわかったが、伝えようにも声が出ない。手が震えだして冷や汗が背中を伝っていく。湊なら私を助けてくれる。そう思いながらも、その腕にすがる力もない。
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