53人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
第11話 アンナ姫
セリユーズ王国の姫君であるアンナ姫は十七歳。
艶やかなブロンドのロングヘアに愛くるしい容姿を持ち、先日行われた社交界デビュー以来ひっきりなしに求婚の書状が城に届くほど人気のある姫である。
しかし、アンナはことごとくそれを断り続けていた。
それはアンナが面食い、いわゆる『顔がいい男』が大好きだからだった。
「アンナ、今日は隣国のルイ王子からお前に手紙が届いているぞ」
「ルイ王子? 嫌よ! 私の好きな顔じゃないもの」
早くアンナに結婚して欲しいと願っている国王は、それを聞いて肩を落とした。
「アンナ、ただ顔がいいだけでは良い相手とは言えないんだよ?」
「ふん。きっとどこかに容姿端麗で私を守ってくれる理想の相手がいるはずだわ! 私、その人が現れるまで結婚しませんから」
プイッと国王から顔を背けるアンナに、国王はやれやれと頭を振ると思い出したように言った。
「そうだ。アンナ、数日後に私と一緒に隣国に訪問して欲しい。あちらから招待されてね。ぜひ姫君もご一緒に、とのことだ。一緒に行ってくれるね?」
「ええ……どうしようかしら」
「パーティーには各国からたくさんの王子たちが訪れるそうだよ。行く価値はあるだろ?」
もしかしたら理想の相手がいるかもしれない……。
アンナはそう考え、気乗りはしないが渋々うなづいたのだった__。
***
王国騎士団に囲まれ、隣国へ向かう馬車は山道に差し掛かっていた。
先程までの平坦な道とは違い、デコボコした道で馬車が大きく揺れる。
アンナはだんだんと具合が悪くなっていくのを感じていた。
(うっ……気持ち悪い……)
少し吐き気を催したが、こんな騎士団の団員がたくさんいる中で吐くわけにはいかない。
仕方なく国王に言おうとしたが、肝心の国王はうとうとと眠っている。
(もう! お父様って役に立たないんだから!)
もうどうしていいか分からず、馬車の椅子の背もたれにアンナは身体を預けた。
すると馬車が急に動きを止め、外から「失礼いたします」という騎士団の団員の声が聞こえた。
(何よ、こんな時に……)
私が何も言えないでいると、馬車のドアが開きそこにはコップの水を差し出す一人の騎士がいた。
その姿を見て、アンナの心に矢で射抜かれたような衝撃が走った。
(なんて綺麗な顔……この人が私の理想の相手? 嗚呼、出会ってしまったのね!)
水を飲み落ち着いたところでその騎士の名前を聞くと、「マリユス」という名前だという。
「マリユス。隣国に着いたら私の隣で護衛をお願いね」
やっと見つけた理想の相手。
みすみす逃してなるものですか!
マリユスとの出会いに運命を感じてしまったアンナは、具合が悪いのも忘れてそう思うのだった。
最初のコメントを投稿しよう!