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第12話 カフェで待ち伏せ
アンセルからマリユスが姫君専属の騎士になると聞かされた私は、一人自分の部屋に籠り絶望で落ち込んでいた。
「姫君ってアンナ姫だよね。すごく可愛らしいお姫様。マリユスがアンナ姫のことを好きになっちゃったらどうしよう……」
マリユスのことを信用してはいるが、国の内外から求婚が絶えないと噂のアンナ姫である。
私は、なんとかしてマリユスに会えないかと思いを巡らせた。
会ってちゃんと私の気持ちを伝えたい!
「こうなったらマリユスのお家の近くでマリユスが帰るのを待つしかないわね!」
そう考えた私は、明日マリユスの屋敷の近くのカフェでマリユスが帰ってくるのを待つことにしたのだった。
***
次の日の夜。
マリユスの屋敷が見えるカフェで私は夕方からマリユスが帰ってくるのをじっと待っていた。
もう何杯紅茶をおかわりしただろう……。
「お嬢さん。恋人の彼はまだ帰ってこないのかい?」
「ええ。こんな時間まで居座ってごめんなさい……」
「いいんだよ。どうせ明日は定休日だしな。それに大事な恋人なんだろう? 店のことは心配しなくていいから頑張りな」
「ありがとうございます!」
親切なカフェのおじさんに勇気をもらって、私はマリユスが帰ってくるのを今か今かと待ち侘びていた。
すると、自分の愛馬に乗って屋敷に帰ってきたマリユスの姿が現れた。
「あっ、帰ってきた! おじさん、ありがとうございました! 私行ってきます!」
紅茶一杯分の代金でいいと言うおじさんに頭を下げながらテーブルにお金を置くと、私はマリユスの元に駆け出した。
「はぁ、はぁ……マリユス! 待って!」
愛馬から降り、その毛並みを整えてやった後、屋敷に入ろうとしているマリユスに私は大声で叫んだ。
「コレット?」
自分の元に走り寄ってくる私を見たマリユスは、驚きで信じられないという顔をしている。
「コレット! なぜ君がこんな時間にここにいるんだ!」
普段あまり感情を表に出さないマリユスだが、さすがにこんな時間に私がここにいることに怒っているらしい。
「私、マリユスに会いたくて……。最近ずっと会えなかったでしょう? それにお兄様から聞いたの。マリユスがアンナ姫専属の騎士になるかもしれないって。だから私……」
私がそう気持ちを伝えると、マリユスは何かを言いかけてぐっと口を結ぶと、再び愛馬にまたがり私を引っ張り上げた。
「きゃあ!」
「送っていく。俺にしっかり掴まっていろ」
私がマリユスの身体にギュと掴まると、馬は勢いよく走り出した。
その間、マリユスは無言で馬を走らせているので私もただ黙ってマリユスにしがみついているだけだった。
お互い無言のまま、あっという間に私の屋敷に到着すると、マリユスは私を馬から降ろしながら言った。
「令嬢がこんな夜遅くに出歩くなんてこれからは絶対やめてくれ」
「でもこうでもしないとマリユスと会えないじゃない! 私の気持ちも知らないで! もういい。マリユスなんて大嫌い!」
私が思っているほど、マリユスは私に会いたくないんだ……。
私は、送ってくれたマリユスにお礼も言わずに泣きながら屋敷の中に入ったのだった。
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