第15話 護衛任務(マリユス視点)②

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第15話 護衛任務(マリユス視点)②

 隣国への国王と姫君の護衛任務。 途中、具合が悪そうな姫君に水を持っていった俺は、なぜか姫君から自分の側で護衛をするように言われた。 姫君は隣国に到着するやいなや俺を呼びつけると、ずっと側にいるよう命じ、パーティーの席でも俺がエスコート役をさせられる始末だった。  (俺は王子ではないんだぞ……なんでこんなことをさせられているんだ)  不甲斐ない思いを抱えながら、それでも団長からの「姫君の専属の騎士とは名誉なことじゃないか」という言葉をありがたく受け止めて任務に当たっていた。  セリユーズ王国に帰還してからも、俺は引き続き姫君の側にいるよう命じられている。 「マリユス! 見て! 新しくドレスを新調したの! どう? 似合うかしら?」   「はい。よくお似合いです」  側で跪き、差し障りのない返事をする俺に姫君は不満気に言った。 「もう! もっと私を見てマリユス! 本当に真面目なんだから……まぁそういうとこもいいんだけど」 「……」  こういう姫君には、俺のような堅物の騎士は合わないと思う。 俺は口数も少ないし、ましてやご機嫌取りのようなことも苦手なのでなぜ俺が姫君の専属騎士に選ばれたのか未だに謎だ。  とりあえず今日の任務を終えた俺は、愛馬のラピッドに乗って家路を急いでいた。 屋敷に到着し、ラピッドの体を優しく撫でてやる。 最近、コレットに会う時間が全くない俺にとって、ラピッドと触れ合うことが唯一の息抜きになっている。 コレットは元気にしているだろうか。 いや、あいつなら心配しなくても元気に毎日頑張っているだろう。 部屋の窓から思い切り俺に向かって手を振っていた姿を思い出して、思わず笑みがこぼれる。 「ラピッド、屋敷に入ろうか」  俺がラピッドに声をかけたその時、通りの向こうから俺を呼ぶ声が聞こえた。 「マリユス! 待って!」  聞き慣れたこの声に、俺は自分の目を疑った。 通りの向こうから俺に向かって走ってきたのがコレットだったからだ。 「コレット?」  俺がコレットの名を呼ぶと、コレットは嬉しそうに笑った。 愛おしい恋人に久しぶりに会えた喜びも束の間、俺はこんな時間に一人でここにいるコレットに怒りを覚えた。 「コレット! なぜ君がこんな時間にここにいるんだ!」  俺が少し強い口調でそう言うと、コレットは「私、マリユスに会いたくて……」と泣きそうな顔をしている。 会えなかった分の思いもあり、すぐにでもコレットを抱きしめて自分の気持ちも伝えたかった。 しかし、まだまだ騎士として未熟な俺がそんなことをしてはいけないと自分を抑え込んだ。 俺は再びラピッドにまたがり、コレットを引っ張るようにして引き上げた。 「送っていく。俺にしっかり掴まっていろ」    いつもより早いスピードでラピッドを走らせる俺の後ろで、コレットは怖いのか俺にぎゅっとしがみついている。 全く……。一人でこんな夜遅くにお前に何かあったら俺は……。 そんなモヤモヤした気持ちで、お互い無言のままコレットの屋敷に到着した。 「令嬢がこんな夜遅くに出歩くなんてこれからは絶対やめてくれ」  本当に心の底から心配してそう言った俺に、コレットはいつもと違って感情的になっていた。 「でもこうでもしないとマリユスと会えないじゃない! 私の気持ちも知らないで! もういい。マリユスなんて大嫌い!」  (大嫌い? ……)  泣きながら屋敷に走っていくコレットの姿を、俺は呆然とただ見送るしかなかった。
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