第16話 拉致

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第16話 拉致

「姉上? ……どこに行っちゃったんだろう……」  エミールがコレットを探してカフェの周りを見て回っていると、近くにいた年配の貴婦人がエミールに声をかけた。 「あら。誰かをお探し?」 「ええ。姉を探しているんです。カフェの外で待っててって言ったんですけど……」 「そういえば、さっき貴族の格好をした男性に抱き上げられて連れていかれる女の子がいたわねぇ……家族か何かだと思って気にしなかったんだけど」 「ええ! あ、教えていただいてありがとうございます!」 「あっちのほうへ歩いていったわよ」  エミールは貴婦人に頭を下げると、コレットが連れていかれたらしい方向に向かった。 しかし、それらしき人影はなく周囲の人々も誰一人として貴族の格好をした男とコレットの姿を見ていないという。  (どうしよう……そうだ、兄上に相談しよう!)  エミールは踵を返すと、アンセルが駐在している城に向かって走り出した。 *** 「うっ……冷たい……私、なんで床の上に寝てるの?」  ふと目が覚めると、私は薄暗い部屋の床の上に寝転んでいた。 冷たくて硬い床の居心地の悪さに身体を起こそうとしたが、まだ意識が朦朧としていて起き上がることが出来なかった。 この状況がよくわからず、私は自分を落ち着かせて少しずつ前の記憶を辿っていった。 今日は、エミールに新しいカフェに連れて行ってもらったのよね……。 マリユスの話をエミールに聞いてもらって、少し気持ちが軽くなった……。 それから、スイーツを食べ終わってエミールが奢ってくれると言ったから外でエミールを待ってたの。 その時……。 私はそこまで記憶を辿ると、はっとしてある人の顔を思い出した。 「コルネイユ、さん、……?」  どうしてコルネイユがあの場に現れたのか、コルネイユから何も説明がなかった。 確か、「目を見ていただけますか?」と言われて覗き込んできたコルネイユの目を見た途端に眠気が襲ってきて……。  (どういうこと?)  ここに私を連れてきたのがコルネイユなら、なぜこんなことをするのだろう。 私がそう思った時、前にエミールに言われたことを思い出した。  (「演奏会の前にね、不審な、魔力っていうのかな? そういうものを使って他人のチケットを奪ったやつがいたんだって」)  まさか! あの時の不審な男って! 私はあの時の不審な男がコルネイユかもしれないと考えて身震いをした。 コルネイユの目を見た途端に眠気に襲われ、気がついたらこんな薄気味悪いところにいるということは、そう考えて間違いはないだろう。  (逃げなきゃ!!!)  頭では逃げなくてはと思っているのだが、身体が言うことを聞いてくれない……。 「おや? やっと目が覚めたようですね」  (!!!)  床に転がる私の後ろから声が聞こえ、私がゆっくりと後ろを振り向くと、そこには私が考えていた通りコルネイユがニヤけた顔で私を見下ろしていたのだった……。
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