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第18話 耳を疑う事実
コレットが行方不明になり、それをアンセルに知らせるためエミールは城までの道のりを全力で走っていた。
あと少しで城というところで、魔物の出現のために道が封鎖されているところがありそこでエミールは王国騎士団に城へ行くのを止められてしまった。
「あの! アンセル団長はいませんか? 僕、アンセルの弟なんです! 大至急知らせたいことがあって!」
道の封鎖の警備に当たっている団員に、エミールは息を切らしながら尋ねた。
すると団員は首を横に振って、申し訳なさそうにエミールを見た。
「団長の弟さんでしたか。申し訳ありませんが、今、団長は他の場所で魔物の討伐に当たっており城を離れております。我々もここを離れるわけにはいかず……。ここの警備が終わりましたら団長に伝えておきますが」
「それじゃあ遅いんです! ……あっ、マリユスさんは? マリユスさんはいますか?」
「マリユス……ああ、マリユスはアンナ姫の護衛をしていると思います。城の近くで魔物が出現したとあっては、姫君の護衛も一層強化をしますので」
「そんな……二人とも……。お願いします! どちらかに大至急伝えて欲しいんです、姉が、姉が悪い男に連れていかれたんです!」
エミールはそう言うと、その場に崩れ落ちるように膝をついた。
話を聞いた団員は、そんなエミールの姿を見て困惑しながらもエミールの身体を支えて立ち上がらせてくれた。
「わかりました。団長は少し遠いところにいるので無理ですが、マリユスになんとか伝えてみます! 任せてください」
「本当ですか? ありがとうございます!」
エミールが団員にお礼を言うと、その団員は大きくうなづいて人で溢れかえる城への道の中に消えていった。
「マリユスさんにどうか伝わってくれ……」
団員の後ろ姿を見送りながら、エミールは拳を握りしめてその場に立ち尽くしていた。
***
城の中で、マリユスはアンナ姫の側で護衛に当たっていた。
城の外では、何人もの王国騎士団の団員たちが魔物の討伐に追われている。
自分もすぐさまそちらに駆けつけたい。
しかし、自分だけがそれを目の当たりにしながら何も出来ないことに歯痒さを感じていた。
それとともに、先日コレットに言われた一言がマリユスを苦しめていた。
(「マリユスなんて大嫌い!」)
コレットのことを大事に思っているために、強めの言い方をしてしまった。
自分の思いと裏腹に、コレットを泣かせてしまった……。
あの後屋敷に戻り、婚約中の兄に恥ずかしながらもこのことを話した。
すると、兄から「お前、女性の気持ちが全くわかっていないな。好きとか愛してるとか言ったことあるのか? 抱きしめてやるとか。そういうことが全くないなら嫌われるのも当然だ」と言われてしまった。
そういうものなのだろうか……。
「マリユス! マリユスはいるか?」
姫君の側に仕えながらも頭の中はコレットのことで一杯になっていた時、部屋の外からマリユスを呼ぶ声が聞こえた。
「ここにおります」
「マリユス、言伝だ。団長の妹君が不審な男に攫われたらしい」
「なっ……」
コレットが、攫われた?
マリユスは自分の耳を疑ったが、これは夢ではない事実だ。
動揺するマリユスの脳裏には、泣いているであろうコレットの顔が浮かんでいた……。
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