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第2話 寡黙で冷静
マリユス・リシャール 十九歳。
リシャール子爵家の二男。
『聖リーヴル学園』での私の同級生。
そして、私の恋人だ。
マリユスは、とても寡黙で常に冷静、そして一つも隙がないようなそんな青年である。
学園卒業後は、夢であった騎士団に入団し日々剣の鍛錬に励んでいる。
今日の魔物討伐にも、当然マリユスは参加している。
「今日はマリユスが好きな卵焼きをたくさん作ったからきっと喜んでくれるはず! ふふふっ。今度会ったら感想聞いてみよう!」
次の騎士団の休みにマリユスと会う約束をしている私は、うきうきしながらデートに着ていく服を選ぶのだった__。
***
週末。
今日は久しぶりにマリユスとゆっくり会うことが出来る。
私は、いつも待ち合わせの場所にしている図書館に向かった。
久しぶりに会うために、服も髪型もいつもよりおしゃれになるように頑張ったつもりだ。
早く会いたくて、私の足取りは自然に早くなっていった。
図書館の中に入ると、いつもの場所でマリユスは本を読んでいた。
じっと本を読む横顔もかっこいい。
サラサラの黒髪。
文字を追うクールな目元。
すっと通った綺麗な鼻と形の良い唇……。
いつもの騎士の姿とは違い、シンプルな白シャツに細身の黒のスラックス姿が素敵。
そんなことを考えながら図書館の入り口辺りでマリユスを観察していると、本から顔を上げこちらを向いたマリユスと目があった。
(あっ……)
本を読んでいたマリユスを見ていたことを気づかれてしまい、私が恥ずかしさで顔を赤らめていると、その間にもマリユスは表情を崩すことなく読んでいた本を棚に戻し、私のところに歩いてきた。
「ずっと見てたのか?」
「うん……」
「そうか……行こうか」
私がこくんとうなづくと、マリユスは自然な所作で私と手を繋いだ。
図書館を出て、私とマリユスはいつも過ごす草原に続く道を手を繋いで歩いていく。
私は、照れを隠すように笑いながらマリユスを見上げた。
「魔物の討伐お疲れ様! ねえ。昼食にマリユスが好きな卵焼き入れたんだけど……味どうだった?」
「卵焼き? ……」
マリユスは少し考えるように顎に手を当てると、はっと何かを思い出したようだった。
(あっ、思い出してくれたのかな)
「団長が……」
「ん? 団長?」
「ああ。団長が卵焼きをすごく美味そうに食べてた……」
「へ?」
珍しく表情を崩して幸せそうに話してくれるマリユスを、私は嬉しいような寂しいような複雑な気持ちで見つめた。
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