第7話 コルネイユ

1/1

53人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ

第7話 コルネイユ

 男性が連れてきてくれたレストランは、街で一番の高級レストランだった。  (えっ、こんな高いお店! 私、図々しかったかしら……)  私の心配をよそに、男性は慣れた様子で給仕に料理を注文していく。 私のテーブルは、あっという間に高級料理で埋め尽くされていた。 「では、いただきましょうか」 「は、はい」  テーブルマナーはきちんと身に付いているものの、実際にこんな高級レストランで食事をするのは初めてで緊張してしまう。 私は、少し震える手で食事を始めた。 「ああ。そんなに緊張しないで。そうだ、まだ自己紹介をしていませんでしたね。私はコルネイユと申します。隣国に住んでいる貴族です」 「初めまして。私はコレットと申します」 「コレット様。素敵なお名前ですね。コレット様は学生さんでしょうか?」 「いえ、今はもう学園を卒業して父の仕事の手伝いをしております」 「ほう。お父様の? 仲がよろしいご家庭なのですね。コレット様を見ればわかります。ご兄弟はいらっしゃるのですか?」 「はい。六歳上の兄と二歳下の弟がおります」    コルネイユは、とても話し上手な上に聞き上手なため、私はすらすらと自分のことを話してしまう。 「お兄様と弟君がいるのですね。今日は恋人と一緒に来られなかったと言っていましたが……。ご兄弟とは来なかったのですか?」 「今日の演奏会は、弟は奏者として演奏していたんです。兄はこの国の騎士団の団長をしているのですが、今日は国王様の護衛で隣国に出向いております」  私がアンセルの話をすると、コルネイユは少しビクッとしたように肩を震わせたような気がしたが、私は特に気にすることなく話を続けた。 「実は、私の恋人も騎士団の騎士なんです」 「そうなのですね。では、今日はお兄様と一緒に任務ということですか?」 「ええ」 「なるほど。それで一人で演奏会に……。でもそのおかげでコレット様とこのように食事を共にすることが出来ました。神に感謝せねば」  コルネイユはそう言ってワイングラスを掴み高く持ち上げると、入っていた赤ワインを口に含んだ。  和気あいあいとした和やかな雰囲気の中で食事も進み、私が最後のデザートを食べているとコルネイユが私に言った。 「コレット様。私が再度この国を訪れた際にはまた一緒に食事をしてくださいませんか?」 「え、でも……コルネイユさんも婚約者がいらっしゃるんですよね?」 「ああ、言い方が悪かったですね。次回は私の婚約者マリーも一緒に、という意味です」 「あっ、それなら、はい……」  私がコルネイユの誘いに応じると、コルネイユは嬉しそうに私を見て自分の上着の内ポケットから何かを取り出した。 「今日、コレット様と知り合えた記念にこれを」  コルネイユが私に差し出したものは、綺麗なクリスタルが何個か付いている細身のブレスレットだった。 こんな高価なもの受け取れない、と言う私に、コルネイユは記念だからとそれを私の手首に付けてくれたのだった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加