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第8話 悪い魔法使い
セリユーズ王国から遥か遠く。
剣山のように尖ったいくつもの山に囲まれた黒い古城。
その暗く陰湿な城の奥の王座に、足を組んで座っている男がいる。
彼の名は『コルネイユ』。
魔法を使って魔物を操り、あることを企んでいる悪い魔法使いである。
「くそっ。あの忌々しい騎士団長めが!
セリユーズ王国を我が物にするため、じわじわと国境付近から魔物を送り込む作戦だったのに……。なんなんだ、あの強さは。おかげで俺の計画は振り出しに戻ったではないか!」
セリユーズ王国の国境付近に現れた魔物は、コルネイユが魔法で操っていた魔物であった。
いち早くそれに気づいた王国騎士団が、圧倒的な強さで魔物を退治したのは数週間前のことである。
その中でも特に強く、見事な剣捌きをしていたのが団長のアンセルだった。
「あのアンセルという男。只者ではない。何かあいつの弱みとなるものがないか調べる必要があるな……。五日後、人間の貴族に化けてセリユーズ王国に行ってみるとするか」
コルネイユはそう言うと、しもべの魔物が持ってきた赤ワインを一気にぐいっと飲み干したのだった__。
***
貴族の格好をし、セリユーズ王国の街中をコルネイユがぶらぶらと歩いていると、街のホールに並ぶ人の列が見えてきた。
(何なのだこれは……。演奏会、か。ふふふ。一人で来ている者を探して騎士団長様の噂でも聞いてみるとするか)
コルネイユは、近くにいた演奏会のチケットを持った男に声をかけた。
「そのチケット、私に譲っていただけませんか?」
「は? 今から俺が聴きにいくんだ。無理に決まってるだろ」
「そうですか……。おい、俺の目を見ろ!!!」
突然コルネイユに怒鳴られた男がコルネイユの目を見ると、たちまちその場にへたり込んでしまった。
「そのチケット、私に譲っていただけますね?」
「はい……どうぞ……」
魔法にかかった男からチケットを受け取ったコルネイユは、悠々とホールの中に入っていったのだった。
ホールの中に入ったコルネイユがざっとホール全体を見渡すと、一人でぽつんと座っている少女を発見した。
「あの娘の隣に座ろう」
少女の隣に座り、演奏会を楽しむふりをしていたコルネイユは、演奏会が終わり席を立とうとした少女の気を引くため深いため息をついた。
するとそれを見た少女は、自分からコルネイユに話しかけてきたため、コルネイユは嘘の話を聞かせ食事に誘うことにも成功した。
(ふふ。馬鹿な娘だ)
食事の場でも、コルネイユの巧みな話術で少女は自分の話をどんどんしていく。
するとその少女の兄があの憎っくきアンセルだというではないか。
(あの男の弱みが自分から飛び込んできてくれるとは……)
今日の記念にと、コルネイユは魔力を封じたブレスレットをプレゼントし少女の手首に付けた。
(これでいつでもこの娘の居場所がわかる。騎士団長め。俺を怒らせたことを後悔させてやる)
「ふふふふ……あははは」
少女と別れて、一人路地裏を歩くコルネイユの笑い声が不気味にその場に響き渡ったのだった。
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