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第1話 内緒の恋人
今日は、朝早くから屋敷の中がバタバタと慌ただしい。
なんでも国境付近の村に魔物が出たらしく、兄が所属している騎士団が魔物の討伐に出向くのだ。
私は、屋敷の使用人たちと一緒に大量のサンドイッチやおかずを作っていた。
討伐に出向く騎士団で、兄は団長を務めている。
そのため、他の団員のためにと毎回討伐に行く際にはこのように団員全員分の昼食を用意している。
「出来た〜!!!」
出来上がった人数分の昼食を見ながら、私はある人のことを考えていた……。
***
コレット・ルヴィエール 十九歳。
ここセリユーズ王国の貴族、ルヴィエール男爵家の長女である。
学園を卒業し、今は父であるルヴィエール男爵の仕事のサポートをしている。
兄弟は、六歳上の兄と二歳下の弟。
兄のアンセル・ルヴィエール 二十五歳。
セリユーズ王国騎士団で団長を任されている。
持ち前の統率力で、団員全員から尊敬される私自慢の兄である。
六歳上ということもあり、私のことを妹というより娘のように過保護に扱っているところがある。
弟のエミール・ルヴィエール 十七歳。
私が卒業した『聖リーヴル学園』の二期生。
アンセルとは真逆で、騎士団や剣の修行には全く興味がなく音楽や芸術を愛している心優しい可愛い弟だ。
そして、父ルヴィエール男爵と母マリィ。
執事のジョルジュを筆頭とした使用人たち。
そんな人たちに囲まれ、私は毎日幸せな日々を送っている。
「行ってらっしゃいませ、お兄様! 本日もお気をつけて」
「ああ。行ってくる……コレット、いつも言っているが父上の仕事ばかり手伝っていないで少しは花嫁修行もしたらどうなんだ?」
玄関のホールで見送る私に、アンセルはいつものようにそう言って笑った。
「えっ? でも、私まだお嫁に行く予定はありません。それにお兄様もまだご結婚なさってないですし」
アンセルのいつもの小言が始まり、私は意地悪な顔でアンセルを見つめた。
「俺はまだいいんだ。お前には早くいい相手と結婚して幸せになって欲しい」
不服そうな私の頭を軽く撫でると、アンセルは「じゃあな!」と手を上げて討伐に向かうためその場を後にした。
(結婚だけが幸せってわけではないと思うんだけど……)
それにみんなには内緒にしているが、私にはマリユスという学園時代からの恋人がいるのだ。
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