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ひらりと、一枚の写真が私の足元に舞い落ちた。
「あっ……」
私は慌てて写真を拾い上げると、傷がつかないようそっと埃を払った。
――旧家の次男に気に入られ、婚約までこぎつけたところだった。時折呼び出されては、やれ庭の草むしりを手伝えとか、やれ窓拭きを手伝えとか、いいように手伝いをさせられている。無料の家政婦扱い……それは薄々気づいていたが、身寄りのない私がこんな歴史のある家に嫁ぐなんて、これを逃したら二度とないこともわかっていた。
だから、今日も何かの手続きがあると呼び出されたが、そのついでのように蔵の片付けも言い渡され、それでも文句も言わずに埃にまみれていたのだった。
――その写真は、なぜか棚の上の、古い木箱を持ち上げた時に降って来た。
「なんでこんなところから……?」
埃でむずむずする鼻を擦って、何となくその写真に目を落とした。
――最初に目に飛び込んできたのは、背景の白と黒の縞模様。
お葬式のときに壁を覆う、鯨幕と呼ばれるあれだ。
「お葬式の写真……? ……じゃないか」
その写真は、白黒写真だった。だから幕も白と黒だけど……。
きっと結婚式の写真だ。
紅白の幕が、白黒に写ったもの。
――だって……。
「奈美さん、どうかされましたか」
声を掛けられ、私は現実に引き戻された。
この家で長く家政婦として働く金井さんが、後ろに立っている。
「あの、これが棚から……」
「あら? なんですか、その写真」
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