20人が本棚に入れています
本棚に追加
「……どうして、亡くなったんでしょうか? その方は……。ご病気か何かで……?」
写真に写った範囲の外……葬儀壇を想像してみる。
どんな遺影が飾られているんだろう……。
「健康な方でしたよ。まだ二十代でしたか。――突然心臓麻痺を起こされて……」
二十代……私と同じだ。
そう考えて、鼓動が大きくなる。
そして……次男の嫁であることも、同じ……。
「孤児として育った方で……入籍と同時に、法外な額の生命保険に入っていらして」
金井さんの言葉に、全身からどっと汗が吹き出した。
今日呼び出された手続き……保険がどうとか言っていなかったか。
凍り付いた私の手から、金井さんは写真を摘まみ上げ、
「この大きなお屋敷でしょう。維持するだけでも相当かかるみたいです」
と言って、そっと私の背中を押した。
それは、一歩を踏み出すのに、十分な後押しになった。
――私はそのまま、蔵を出て、屋敷を出て……二度と、その家の門はくぐらなかった。その後しつこく、次彦さんからの着信が続いたが、数週間でぱったりとそれも途絶えた。
本当に、あの写真がお葬式のものなのかはわからない。
実際は、紅白の幕だったのかも知れない。
でも、あの黒い着物の人たちの笑顔が腹黒く見えた自分の直感を、信じようと思った。
―終―
最初のコメントを投稿しよう!