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話が出ている訳ではないけれど、なにせ30歳が目前に迫ってきているし、早く昇進が決まって、それを機にプロポーズしてくれればいいなと、密かに望んでいる。
「これ、コピー10部頼む」
「あ、わたし、行ってきます」
と、わたしの手から書類をさっと奪ったのは、今年、入社したばかりの岡路留奈。
彼女はパステルカラーのワンピースにレースやリボンをあしらったパンプスで会社にやってくる。
オフィスに似つかわしくないと思うのだけど、若手の男性社員たちには好評で、アイドル的人気を誇っている。
実際、アイドルの誰それに似ているともっぱらの評判だ。
仕事ぶりに関しては言わずもがな。
新人だからミスは仕方がないけれど、難しい仕事はパス、残業は一切しない、と、かなり自由な勤務態度。
でも、誰も叱らない。彼女が、岡路常務が溺愛する末娘だからだ。
宣人はわたしに「今日は早く帰れそうだから、飯、頼む」と言い残して、自席に戻っていった。
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