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「茉衣、帰ってこられるか。母さんの具合がよくなくてな」
父から電話がかかってきたのは、翌週の水曜日の午後のことだった。
母は昔から心臓が悪く、わたしが大学を卒業したころから、入退院を繰り返すようになっていた。
「わかった。休暇もらえるように頼んでみる」
母が病気であることは前から上司に話していた。
繁忙期ではなかったので、その日の半休と木曜、金曜の休暇がもらえた。
わたしは急いで部屋に戻り、荷物をまとめ、新幹線で2時間あまりの実家に向かった。
外回りに出ていた宣人には「日曜日に帰る」とだけ連絡して。
病院に着いたとき、母の容態は好転していた。
早めに処置したことが幸いしたようだ。
「お母さん、大丈夫?」と、わたしは母の手を握った。
「茉衣、帰ってきてくれたんだね。ごめんね」
弱々しいながらも、母はしっかりとわたしの手を握りかえした。
父が戻ってきて、スツールを引き寄せて、わたしの横に座った。
「会社を休ませて悪かったな。お医者さんの話では今回は問題ないようだ」
「ううん、大丈夫。有給がだいぶ溜まってたし。お母さんの顔が見られて安心した」
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