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憮然とした顔で自席に着いた宣人のもとに、一樹が歩み寄った。
「伊川さん」
宣人は横目で一樹を見て、自嘲気味に笑う。
「お前、どうせ、いい気味だと思ってるんだろうな。ご丁寧にあざ笑いにきたのか」
「ああ、大馬鹿ですよ、あなたは」
一樹はチッと舌打ちする宣人の肩をつかんだ。
そして椅子を回転させ、自分の方に向けると宣人を真正面から見据えた。
「もう、いいかげん、その狭い了見、捨ててくれませんか。男の沽券とかプライドとか、そんなのどうでもいいじゃないですか。俺は入社以来ずっと、あなたの背中を追いかけてきた。今もそれは変わりません。今回のプロジェクトだって、あなたなしでは成り立たない。お願いします。俺と一緒にプロジェクトを成功させてください」
それだけ言うと、一樹は深く頭を下げた。
一樹の言葉に、宣人は苦い表情を浮かべた。
そこにいた誰もが、ふたりの器の違いを、そしてどっちがリーダーにふさわしいか痛感した。
さすがの宣人も一言も言い返せなかった。完敗だった。
「頭、上げろよ」
宣人はそう一言だけ残し、そのまま戸口に向かった。
一樹はその背中に声をかけた。
「でも、梶原さんは絶対渡しませんから」
宣人は一樹に顔だけ向け、苦笑交じりに言った。
「お前なぁ、その一言、余計」
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