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で、ショルダーとキャリーバッグを手に、勢いで飛び出してきてしまった。
キャスターをがたがた言わせながら、門前仲町のマンションから茫然と歩きつづけ、気づいたときには永代橋まで来ていた。
勝ち組の象徴のようなタワマンの明かりが暗い川面を彩っている。
嫌になるほど、ここから見る夜景は美しい。
落ち着いて考えれば、わたしが飛び出す必要はまったくなかった。
戻って、二人を叩き出す?
でも、今からあそこに帰って、あの二人とやり合うなんて、考えられない。そこまでの気力は残っていなかった。
それにしても、さっき耳にした二人のやりとりが頭にこびりついている。
家であんなことするなんて、あまりにもひどすぎる。
裏切られた悔しさが、ふたたび身の内に溢れかえってくる。
あんな奴らのために泣くなんてもったいないと思うのに、涙が勝手に頬を伝ってしまう。
23時近いので、人通りは少ない。
たまに通りかかる人も、不審げに視線を向けるだけで声をかけてはこない。
当たり前だ。夜更けに橋の上で泣いている女なんて地雷以外の何ものでもない。
そのまましばらくそこにたたずんで、走り去る車を見るともなしに眺めていた。
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