試験

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試験

 年が明け、試験の日はあっという間にやってきた。  お母さんから貰った合格祈願の御守りを握りしめ、試験会場に向かう。  試験中は今までの人生でいちばん緊張したけれど、やってきたことは出せたと思う。  落ち着かない一週間が過ぎ、届いた通知を震える手で開ける。  取り出した通知に書かれた『合格』の文字を見た途端、結月は身体から力が抜けてその場にヘナヘナと座り込んでしまった。  よかった……ホントよかった……。  ちょっとうれしくて泣いてしまったけど、これで応援してくれたマスターと藤沢さんにも笑顔で会いに行ける。  * * *  翌日、エルミタージュに行って合格したことを伝えると、二人は自分のことのように喜んでくれた。 『あの……藤沢さん』  結月はずっと胸に秘めていた想いを伝えようとスマホをタップした。  どうしたのという顔で藤沢が目を向ける。真っ直ぐな眼差しに耐えられず結月はスマホの画面に逃げた。  えっと……。  藤沢は結月のリアクションを待っている。  あの……。 『先輩って呼んでいいですか』  ああっ……。  そんなことを言おうとしていたわけじゃないのに……。  藤沢はもちろん! と紙ナプキンに書いてにっこり笑った。  笑い返してはみたものの他のお客さんが来てしまったので、結局それ以上の話はできず、結月は自己嫌悪をたっぷり抱えなから家路についたのだった。
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