大学生活

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大学生活

 * * *  四月になって結月の大学生活が始まった。  何だかいろいろと忙しい。  手続きは多いし、講義を選択するのも一苦労。勝手がわからず右往左往して落ち着かない上にサークルの誘いがひっきりなしに来るものだから気も休まらない。  藤沢はというと、彫刻の先生が開く個展の手伝いで二週間ほど名古屋に行っているらしい。おかげでろくに話もできてない。  せっかく同じ大学に入ったのに……。  こうも会えないとそもそも縁がなかったんじゃないか……なんてことまで考えてしまう。  だいたい先輩はどうして私に勉強を教えてくれたんだろう。  好意を持っているのは結月の方だけで、藤沢は馴染みの客の大学入試の手伝いをしただけなのかもしれないーー。 『そんなことはないと思うよ』  マスターはいつものやさしい笑顔を浮かべた。 『でも私、耳が聞こえないし……』 『藤沢くんが何か言ったのかい?』 『いえ、先輩は何も言ってないけど』 『じゃあ大丈夫。きっとうまくいくよ』  そう書き込んで、マスターはいつものように親指をグッと立てた。  そうかなあ……。  でも、なぜだろう。この人に言われると大丈夫そうな気がしてくるから不思議だ。
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