先輩

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先輩

 藤沢と会えたのは、もうすぐゴールデンウィークにも入ろうかという月末だった。  キャンパスの隅にあるベンチに座って待っていると紙袋をぶら下げた藤沢がやってきた。  藤沢は結月の隣に座ると持っていた紙袋を差し出した。中には包装紙に包まれたお菓子が入っている。どうやら名古屋のお土産を買ってきてくれたらしい。  藤沢はスマホを取り出しLINEの画面に指を走らせる。 『せっかく入学したのにほったらかしになっちゃってごめんね』 『心細かったです』 『ホントごめん。それ、お詫びのお土産。クッキー嫌いじゃないよね?』 『はい』  お土産はうれしいが、話はそこじゃない。 『あの、先輩』  ん? と藤沢は表情で答える。結月は意を決したように画面をタップした。 『聞きたいことがあります』  一瞬キョトンとした顔を浮かべた藤沢は、しかし、すぐに真面目な表情になって結月を見た。  真っ直ぐな視線に怯みそうになる。でも、ここで逃げたらいままでと何も変わらない。  不安に負けそうな自分を励ますように文字を打つ。 『耳が聞こえない人ってどう思います?』 『それは聴覚に問題のある人の話? それとも結月ちゃんのこと?』 『概ね私のことです』  訊くのは怖い。  けど知っておきたい。  先輩は私のことをどう思ってるの?  勉強を教えてくれたり、かまってくれるのは私の耳が聞こえないから?  私を可哀想だと思う同情心から?  先輩はやさしい。  やさしいからこそ私をかまってくれたのかもしれない。  それはうれしいことだけど、ちょっと哀しい。  先輩は……。
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