二人

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二人

 スマホが震えてメッセージが送られてきた。 『耳が聞こえないからどうだってことはないよ』  すぐに追加のメッセージが飛んで来た。  『結月ちゃんが変わろうとしてたから僕はその手伝いをしたんだ』  変わろうとした――。  たしかに私は変わった。耳が聞こえなくても目標を持つことができた。それを教えてくれたのは先輩だ。  そう返信した。 『人は変わることができる。同じ耳が聞こえない僕が言うんだから間違いない』  えっ?  結月は藤沢の顔を見返した。  先輩は笑顔で頷いた。 『先輩も聞こえないの?』 『うん』  じゃあ私を助けてくれたのは――。  結月の疑問を察したのだろう。 『同じ境遇だから、ってわけじゃないよ』  というメッセージ。そしてすぐに次のメッセージが届く。 『結月ちゃんにも違う世界があることを伝えたかったんだ』  あ――。 『じゃあ、あの時の耳が聞こえない友達って』 『僕』  藤沢はいたずらっぽく笑った。 『これでもちょっと注目されてるんだよ』  先輩も聞こえないなんて……。  自分だけが不幸だなんて思ってはいないけど、こんな身近なところにも同じようなハンデを持っている人がいるとは思ってもみなかった。  先輩はいつもニコニコしてるし、悩みなんかないと思ってた。 『そんなことないよ。僕だって人並みに悩んだりするよ』  先輩も同じように感じて、同じように悩んで、同じように苦労してるんだ。でもそんなところは全然見せない。  そんな先輩のおかげで私は今まで知らなかった新しい世界を知ることができた。 『私、先輩に会えてホントによかった』  ありがとうございますとメッセを送り、結月は深く頭を下げた。  そう、新しい世界を知ることができただけでも十分だ。 『そんなにかしこまらないで。僕の方こそ君に助けられてるんだから』 『どういうことですか』 『君ががんばってる姿を見て僕も負けずにがんばろうと思ってるんだ』  だから――とメッセが追いかけてくる。 『これからも僕と一緒にがんばらないか』  うれしくて画面が滲んでくる。  結月は藤沢を見ると大きく頷いた。弾みで溜まっていた涙が零れたがいまは気にしない。  言ったでしょ――。  たいして根拠もないのに、きっとうまくいくよと言っていたマスターを思い出して、結月はクスリと笑った。                      ――了――
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