逡巡

1/1
前へ
/14ページ
次へ

逡巡

 * * *  家に帰った結月はベッドに横になって藤沢の言ったことを思い出す。  耳が聞こえなくていいことがある――。  そんなことを言われたことはなかったし、考えたこともなかった。  自分は他の人と違う。  音によるコミュニケーションを取ることができない。  劣等感に(さいな)まれ、自信を持てることなんて何ひとつ見つけることができなかった。  でも――。  聞こえないからこそ得られるものがある――。  藤沢の言った言葉は不思議な説得力を持っていた。  その日、結月は初めて気持ちって跳ねることがあるんだということを知った。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加