変化

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変化

 それからの結月は少し変わった。  いきなり目の前が開けたわけではないけれど、なるべく人と関わらずに物事から離れた場所で生きていくという基本方針を、もう少し人や世界と関わってみようと転換したのだ。  もっとも結月の基本方針が変わったからといって、まわりの世界が結月のために変わったわけじゃないから、今までと同じように気に入らないこともたくさんあるし、腹が立つことだって山ほどある。  ひどく嫌なことがあった時、結月はエルミタージュに足を向ける。  コーヒーを頼み、マスターや藤沢の話に耳を傾ける。  音は入ってこなくても書かれた言葉に込められたやさしさや力は受け取ることができる。  あの日、藤沢と会話して以来、結月は大学への進学を意識し始めていた。  美術について学びたいと思ったのだ。  そして――できれば、藤沢と同じ大学で一緒に学びたいと思っている。  不安がないわけじゃない。  むしろ不安だらけだ。自分にどれだけの才能があるのかはわからない。  だけど、初めて自分からやってみたいと思ったことなのだ。  藤沢がいてくれれば心強い。
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