ボーダーライン

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『最近何だか明るくなったね』と言ってきたのは友達の洋子だ。 『そうかな?』 『うん』  洋子はいたずらっぽい顔で続ける。 『もしかして誰か好きな人でもできた?』  え?  一瞬、藤沢の顔が頭の片隅をよぎったが、慌てて首を横に振る。  洋子は親指と人差指で顎を挟んで首を傾げ、怪しい――と言うジェスチャーをして笑った。  怪しくない、怪しくない。  そう否定したものの、なんだかとても恥ずかしかった。  それからというもの、結月は藤沢の顔をまともに見られなくなってしまった。  洋子があんな事を言うもんだからヘンに意識してしまっているらしい。  洋子のバカ――。  当の藤沢はいつも通りに接してくれるのだけど。  結月は考える。  私の気持ちはどこにあるんだろう。  洋子に文句を言ってはいるものの、藤沢に惹かれている自分に気がつき戸惑っている。  でも――。  私は音が聞こえない。  藤沢さんの声を聞くこともできない。  世界に対するボーダーラインは少し低くなったけど、心の中にあるボーダーラインはまだ高めのようだ。
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