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書類の山の向こうから、ひょっこり顔を出す筒原さん。どうやら彼女も、無事なようだ。でも、なぜなんだろう。今までに経験したことのないほどの凄まじい揺れだったのに、そう、あれは体感的には震度七くらいの地震だったのに、この事務所内は何も起こっていないかのように、ただいつもの光景が広がっていた。宙を飛んで割れたはずの筒原さんのマグカップも、何事もなかったかのように机の上に鎮座している。
「筒原さんこそ、なんともなかったっすか? その、怪我とか」
「見ての通り、ピンピンしてるわよ」
「良かった。筒原さんが怪我なんかして就業不能になったら、事務所回りませんからね」
「それは心配ないわよ。空野くんがいるから」
こんな時に褒めてくれなくてもと思うが、口には出さなかった。そんなことより、なにが起こったのか、状況を把握することが先決だ。
なんだかよくわからない。仮にこもれびの杜の建物の耐震構造が凄まじく優秀にできていたとしても、事務所の中が全く荒れていないことなんてあるのだろうか。
俺は、目の前の光景が信じられなかった。
「今、めちゃくちゃ揺れましたよね?」
「うん、揺れた」
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