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第一話 今すぐ grasp the situation
俺たちの目の前には、森が広がっていた。事務所が建っていた場所は、住宅街の中だったはずなのに。
俺の記憶の中だと、その名の通り住宅が建ち並び、家々の垣根を縫うように、道路が整備されていた。いつもと同じ光景に飽き飽きしていたけれど、飽きるほどに馴染んでいた光景が、あるはずの場所に無いというのは、奇妙を通り越して不気味だった。
住宅街の代わりに現れた森は、空を覆い尽くすほどに背の高い針葉樹が集まってできたところらしい。葉の隙間から木漏れ日が降り注ぎ、ふかふかとした土の地面を照らしている。鳥の囀りが鮮明に聞こえてくる。『こもれびの杜』とは、まさにこの状況のことを言うんじゃないだろうかと思うほどにぴったりの光景だった。
「筒原さん」俺は、隣に立つ職場の上司に向かって呼びかけた。「これは一体、どういうことなんでしょうね」
「異世界転生よ」
断言するのか。それは、あなたの願望でしょう。
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