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俺は心の中でガッツポーズをしながら、ばあちゃんの後ろについて浴室まで誘導する。築六十年の一軒家は、すっかり老朽化してしまっていて、俺たちが床を踏みしめると所々でギシギシと不安になるような音がする。老朽化するのは、家だけじゃなく、人間のからだもなんだなよなあと思いながら、居間を横切る。
線香の匂いがする。ばあちゃんは毎朝、じいちゃんの遺影が置かれている仏壇に、線香とご飯を供えるのを日課にしている。今日も朝起きて、米を器によそい、線香に火をつけたのだろう。丸みを帯びて脚が高くなっているその器を、仏飯器というらしい。むかし、ばあちゃんが教えてくれた豆知識だ。
「そういえばおにいちゃん、前にも会ったような気がするけど、あなたのお名前は?」
居間から廊下に出たとき、ばあちゃんは急に立ち止まって俺のほうを振り返った。
「俺っすか? 俺はソラノコタローっていいます。ソラノは青空の空に野原の野、虎に太いと朗らかと書いて、コタローって読みます」
「コタロウくんね。なんだかお侍さんみたいな名前ねえ」
「そうっすかね」
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