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過呼吸
「大丈夫だよ。もう聞こえない」
「顔面蒼白だね……手も震えてる。大丈夫だから、一旦呼吸を落ち着かせよ?」
眩しい光が部屋を覆ったと思うと、すぐそばにふたり、知らない人の気配を感じた。背中を擦られ、手を握られている。呼吸が乱れ、回らない頭で、琴は必死に先程までの状況を思い出した。
確か、日付ギリギリまで宿題をやっていて、オンラインで提出して、それから……。
「じゅう、せい」
そうだ。つけっぱなしにしていたテレビから、銃声が聞こえたのだ。それも、突然、大きな音で。
思い出してしまうともうダメだ。少し落ち着いたと思ったのに、呼吸はまたコントロールを失ってゆく。目の前のふたりが少し慌てるのが見えた。てか、このふたり誰だ。
「ちょ、あ~、なり! イヤマフ貸して!」
「おっけ」
カポッ
音が遮られる。なにやらヘッドホンのようなものをつけられたようだ。驚きからか、一瞬乱れた息が止まる。
「大丈夫。ほら、聞こえないでしょ」
「私に合わせて。ゆーっくり息をはいてごらん」
よく見ると、黒い帽子を被った人が琴の手を握り、袂のある和服を着た人が琴の背中を撫でている。その手に合わせて、荒ぶる呼吸を鎮めれば、途端に眠気が襲ってきた。
「疲れたでしょ。それ貸してあげるから、そのまま寝ちゃいな」
「ちょっとめり、あれ僕の…、まぁ、貸すことに異論はないけど、なんでめりが言うかな……」
「ちょ……え?」
「ほらほら、おやすみ」
ソファに優しく寝かされて、和服の人がそっと琴の目の上に手のひらをかざした。抵抗しようにも、その人にぽんぽんと頭を撫でられて、琴はそのまま眠りについた。
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