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不審者……?
重いまぶたを開けると、琴の過呼吸を宥めてくれた知らないふたりは食卓の椅子で寝ていた。過呼吸の原因となったテレビは画面が切られ、散乱していたはずの勉強道具は綺麗にまとめられて端においてある。時刻は午前一時、おおよそ一時間、このソファの上で疲れて寝てしまったということになる。
今思えば、この帽子の人と和服の人はれっきとした不審者だ。今更だが警察に連絡するか、と琴がスマートフォンを手に取ると、察知したかのように和服の人が飛び起きた。
「ちょっっっっと、待ってお願い」
「いや、不審者さんの話を聞くわけには……。介抱してくださったことはありがたいですけど……」
スッとスマホを耳に当てると、もっと慌てだした。これクロなんじゃないの?
「私たち不審者じゃない! 助動師!」
「は?」
ジョドウシ? 助動詞?
「だから、あなたの『助けて』に反応して出てきたの!」
「意味が分かりません」
「あ~~~!なり、起きてぇ!」
涙目になりながら帽子の人を揺さぶる和服の人。よく見ると、教科書で見たことのある明治大正あたりの女学生の服に似ている。
「ん"〜、聞こえてるし起きてるしうるさいよ。ほんとにうるさい。大体、僕らは助動師なのだから不審者問題はあってないようなものじゃん」
立ち上がった帽子の人は、マントに学ランの男学生姿。なにこれ。コスプレ? しかも髪の色も奇抜だし。
「めり、先ずは自己紹介から。僕は音伝なり。伝聞、推定の助動詞を基に生まれた、助け動く存在、『助動師』のひとりだよ」
なりは、さっと帽子を外して、マントを翻し綺麗に一礼する。
「私は婉目めり。婉曲、推定の助動詞を基に生まれたの。私も『助動師』のひとり。あなたは?」
めりは、ソファに座る琴に視線を合わせて笑う。
「私、は、鳩羽琴です……」
反射で答えてしまった。不審者に名前を教えるなんて、どうかしている。理性ではわかっているが、なぜか不思議と二人のことをすんなり受け入れている自分もいて、琴は少し困惑した。
「琴ちゃん! よろしくね」
すっと差し出された手に、おずおずと琴は自分の手を重ねる。きゅっと握られ、控えめに上下に振られ、そっと離れていった。
「鳩羽さん。呼吸も落ち着いたみたいで、良かった」
なりもそっとしゃがむと、ふわりと微笑んだ。
「少し驚くかもしれないが、警察に通報する前に、僕達についての話を聞いてくれるかい?例えば、『助動師とは』とか」
まっすぐ真剣に琴を見つめるなり。知らない人を自然と受け入れているという不思議体験に少し恐怖していた琴は、少しそっぽを向いてこくりと頷いた。こいつ、顔がいい。
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