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「どこか痛みは?」
反射的に首を振る。痛みは、ない。
ただ、男の低い声を耳に受けただけで背中からせり上がるような痺れ。
男はベッドと私の背中に腕を差し込み、抱えるように私の上体を起こす。
起きた先に大きな鏡が見え、そこに映る自分の姿に呆然とした。
身体を強張らせている私に構わず、男は長く骨ばった指で私の唇をさする。
「……ぅ!?」
突然、男の親指が口腔に侵入した。苦しさに顔を歪ませる。
「……ああ、これで未来永劫、俺と共に生きることになってしまったな」
どこか感嘆に似た声を漏らす男の口元から歯が覗く。それは八重歯というにはあまりにも大きく、獣の牙と表現する方がしっくりくるほど鋭かった。
「吸血妃、としてな」
そして男に差し込まれた指の隙間から、私の歯にも同じものが鏡に映った。
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