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……… その後吉良さんは、内定をもらった就職先の懇親会とかで忙しそうで、卒業までほとんど会えなかった。 会えなくても毎日加算される「好き」は積み重なって、部屋いっぱいにたまると苦しくなる。 嫌われたくないなら、会えなくても知らんぷりして生きていなきゃいけないのに、連絡のない日が3週間になるとさすがに不安になった。 積み重なる「好き」に加えて、ずっと放置されてるため息までたまっていくから、もう部屋に酸素がない。 あの時は…息も絶え絶えの私を見かねた霧子と錦之助が、交代で遊びに連れ出してくれたんだ。 次に吉良さんに会えた時を妄想して、霧子に服を見立ててもらったり、メンズの服を見て回って吉良さんに似合いそうな服を探したり…。 …錦之助は映画を観に行こうと誘ってくれて、映画館の前で待ち合わせた。 チケットを受け取って中に入ろうとした時…携帯が鳴って画面を確認すると… 「…え?吉良さん?」 驚いた声をあげる私の手元を、錦之助も覗き込む。 「…連絡来たじゃん!やった!」 錦之助がニヤニヤしながら肩をバシっと叩いてくるから…思わず私の頬も緩む…。 「…もしもし」 錦之助はちょっと離れてくれたけど、それでも友達の前で吉良さんと話すなんてちょっと照れる…! 「…今誰と一緒にいる?」 聞いてる私の耳まで凍りそうなほど冷たい…氷点下の声…。 「…えっと、錦之介…です」 何か問題があるのだろうか…。 「錦之介となにしてんの?」 「え、映画を観ようと思って今…映画館に…」 吉良さんは何を観るのか聞いてきたのでホラー映画だというと、氷点下の声はさらに冷たくなった。 「…ホラー映画を男と観て、怖かったら抱きつくんだ?」 えぇ…っ?! そんな予定、皆無ですがっ?想定外ですが? もし錦之介が『怖いっ』てすり寄ってきたらはっ倒してやります…! …と瞬時に思ったけど… 「そんなこと、しません」と言うのが精一杯だった。 「そのホラー映画、俺も観たかったんだよな…」 そう呟かれてハッとする。 じゃあ楽しんで…なんて言われて携帯を切られそうになったから、慌てて言った。 「…観ません!錦之介と映画なんて、ホラーなんて観ないので、吉良さんと観たいから…待ってますから…」 必死で声を張り上げて言うと 「…そぅ?じゃ、待ってて」 電話の向こうの声が急に春めいたので、私もホッとして、「…いつ頃…」と聞いてみると… …すでに携帯は切られていた。 結局…この後映画に誘われることはなく、観たかったホラー映画は終わってしまった。 急に1人でホラー映画を観ることになった錦之介にも、ホント悪いことをした…。
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