871人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
………
その後吉良さんは、内定をもらった就職先の懇親会とかで忙しそうで、卒業までほとんど会えなかった。
会えなくても毎日加算される「好き」は積み重なって、部屋いっぱいにたまると苦しくなる。
嫌われたくないなら、会えなくても知らんぷりして生きていなきゃいけないのに、連絡のない日が3週間になるとさすがに不安になった。
積み重なる「好き」に加えて、ずっと放置されてるため息までたまっていくから、もう部屋に酸素がない。
あの時は…息も絶え絶えの私を見かねた霧子と錦之助が、交代で遊びに連れ出してくれたんだ。
次に吉良さんに会えた時を妄想して、霧子に服を見立ててもらったり、メンズの服を見て回って吉良さんに似合いそうな服を探したり…。
…錦之助は映画を観に行こうと誘ってくれて、映画館の前で待ち合わせた。
チケットを受け取って中に入ろうとした時…携帯が鳴って画面を確認すると…
「…え?吉良さん?」
驚いた声をあげる私の手元を、錦之助も覗き込む。
「…連絡来たじゃん!やった!」
錦之助がニヤニヤしながら肩をバシっと叩いてくるから…思わず私の頬も緩む…。
「…もしもし」
錦之助はちょっと離れてくれたけど、それでも友達の前で吉良さんと話すなんてちょっと照れる…!
「…今誰と一緒にいる?」
聞いてる私の耳まで凍りそうなほど冷たい…氷点下の声…。
「…えっと、錦之介…です」
何か問題があるのだろうか…。
「錦之介となにしてんの?」
「え、映画を観ようと思って今…映画館に…」
吉良さんは何を観るのか聞いてきたのでホラー映画だというと、氷点下の声はさらに冷たくなった。
「…ホラー映画を男と観て、怖かったら抱きつくんだ?」
えぇ…っ?!
そんな予定、皆無ですがっ?想定外ですが?
もし錦之介が『怖いっ』てすり寄ってきたらはっ倒してやります…!
…と瞬時に思ったけど…
「そんなこと、しません」と言うのが精一杯だった。
「そのホラー映画、俺も観たかったんだよな…」
そう呟かれてハッとする。
じゃあ楽しんで…なんて言われて携帯を切られそうになったから、慌てて言った。
「…観ません!錦之介と映画なんて、ホラーなんて観ないので、吉良さんと観たいから…待ってますから…」
必死で声を張り上げて言うと
「…そぅ?じゃ、待ってて」
電話の向こうの声が急に春めいたので、私もホッとして、「…いつ頃…」と聞いてみると…
…すでに携帯は切られていた。
結局…この後映画に誘われることはなく、観たかったホラー映画は終わってしまった。
急に1人でホラー映画を観ることになった錦之介にも、ホント悪いことをした…。
最初のコメントを投稿しよう!