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7.
その日授業を終えて家に帰ると、アパートの隣の部屋に入居があったみたいで、引っ越しの荷物が運び込まれていた。
バンダナでハチマキをした髪の長い女性が、一生懸命段ボールを運び入れている。
見るといかにも働く女子、といった風貌の女性だったけど、引っ越し作業中なのにやたら化粧が濃い…。
目が合ったので軽く会釈して部屋に入る。
…もう暗くなってるのに、まだ荷物を運び入れられないんじゃ大変だなぁ…。
…今日中に終わるのかな?
そう思ったら気になって、思わず「手伝いましょうか?」なんて声をかけてしまった。
「助かります…!何しろ私、荷物が多くて…」
軽のワンボックスいっぱいに入っていた段ボールを運び入れると、別の人がもう一台分の荷物を持ってきた。
…こ、これは手伝ってあげて正解だったみたい…。
しばらく荷物を運び入れていると、常に聞いていたい声が頭上から降ってきた。
「…モネ?何やってんだ?」
…この低めセクシーボイスは…
…吉良たんっっっ!!!
尻尾をブルンブルン振る私の横で、引っ越し作業真っ最中の隣人が声をかけてきた。
「…あらまぁ…!スゴいイケメンじゃない…?!私…この方の隣に越してきた吉備須川と申します…!」
私を押しのけて女性が名乗りを上げた。
…吉備須川(きびすがわ)さんって言うんだ。
私には名乗ってくれなかったな…。
スーツではなく部屋着のジャージを着ていた吉良さん。
なんとなく流れで、自然と荷物の搬入を手伝ってくれることになった。
吉備須川さん、腕まくりした吉良さんの腕の筋肉にわかりやすく目を奪われてる。
わ…私だって見たい…!
「…それじゃ、僕らはこのへんで…」
1時間強手伝って、まだ次々運ばれる段ボール。
さすがに吉良さんが撤退を伝えた。
「あらぁ…!まだお名前も教えていただいてませんよ?」
すごい…!手伝わせといて文句言ってる…!
「…私は綾瀬。彼女は桜木桃音です」
愛想笑いだとわかるけど、ニコニコと笑顔を振りまいてるのが吉良さんらしくない…。
というか、こんな笑顔…久しぶりに見た。
「…ご兄妹じゃ…ないんですかぁ?」
吉備須川さんの粘りに、私は咄嗟になんて言ったらいいか迷った。
「…それでは!失礼します」
吉良さんはまた笑顔を作って、部屋に私を押し込んでドアを閉めた。
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