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8.
「は?なんだよ…?おい…!」
ハラハラ溢れる涙を拭おうともしない私を見て、吉良さん…予想以上に慌ててる。
泣きそうな時はキツいこともバンバン言ってくるのに、本当に涙をこぼすと、笑っちゃうくらいうろたえるのは変わってない。
「…な、なんで?その…俺?」
…俺に決まってる。
何がどうしてこうなった?と、らしくない慌てっぷりで、オロオロするレアな吉良さんを目で追う。
涙をいっぱいためた私と目が合って、しばし見つめ合って固まる吉良さん。
「まずは…泣き止め。話にならん」
ふんわりと胸に抱きとめられて、どうして泣いたのか、その理由がだんだんあやふやになっていく。
「笑顔が…」
「…ん?」
「吉良さんの笑顔、久しぶりに見た気がした。でもそれが私に向けられた笑顔じゃなかったから辛い」
いや、私からのメッセージは気がそがれるから嫌だ…って言われたことがショックだった。
さっきまでは…。
でも、泣く理由が多すぎて、だんだんあやふやになっていく。
「…それって、さっきのお隣さんに愛想笑いしたやつのこと?」
ふんわり抱きしめられた腕の中で、コクン…と頷く。
「最近ずっと暗闇ばっかりで、ちゃんと顔も見えなかったから…寂しかった」
寝込みを襲われること…
自分でも意外な泣く理由が出てきたと思った。
「…それは……ごめん」
胸に頬を寄せてるからわかる。
吉良さん…急に心臓がドキドキしてきた。
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