855人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
………
親切な女性に声をかけられて、アパートの近くまで送ってもらった。
何度もお礼を言ってから部屋に入って…
買ってきた缶チューハイを一気に飲んだ。
「…もう、やめよう…」
昨日の、美麗ちゃんと吉良さん。
今日の、美麗ちゃんと吉良さん。
見たことを整理して、納得して飲み込むなんて無理。
でも…吉良さんに面と向かって問いただす勇気もない。
だったらいったん、やめちゃえ…。
もうやめて、すべて手放そう。
私には、まだやらなきゃいけないことがある。
頑張った就活…卒業できなかった、なんてことになったら本気でヤバいの。
「…自分のことに、集中しなきゃ」
シャワーを浴びて、もう一本飲めないお酒を飲んで、その日私はちゃんとベッドに横になって目を閉じた。
…………
「…あっぶなっ!大丈夫かよ?貧血?」
錦之助がフラついた私を咄嗟に支えて、心配そうに顔を覗き込んだ。
「…あ、ごめん」
昨日ほとんど何も食べられず、飲めないお酒を飲んだからか、朝からフラついた。
今日は出なきゃいけない授業がある。
心配そうな錦之助と別れ、講義室に行くと…いて欲しくなかった人がそこにいた。
「…あ!モモちゃん!ちょっと聞いてぇ!」
美麗ちゃん…。
何を言われるんだろう。嫌な予感しかしない。
「昨日吉良の車に乗せてもらっちゃった…!綺麗なもの見せてあげるって言って、ドライブに連れてってくれたの…」
そう…とは言ったものの。
…車に乗るところは見たけど、ドライブに連れて行ったかどうかはわからない。
それに、平日ドライブに連れて行くなんて…あの吉良さんが、信じられなかった。
それより…『吉良』って呼び捨てにするの、やめてほしい。
「あんまり興味ないみたい…!じゃ、そう報告しようかなぁ」
「…なにそれ?吉良さんに、何か報告してるの?」
とっさに詰め寄る私に、美麗ちゃんがしまった…という顔をした。
こんな言動、いつもだったら気づかないかもしれない。
美麗ちゃんは私の問いかけには答えずに、意味深な笑顔を残してその場を離れた。
…………
「…今日だけ、お願い」
一緒にランチをしながら、霧子に今夜一泊させて欲しいと頼んだ。
「…もちろんいいよ!でもさ…」
私の憔悴した様子から、おいそれと理由を聞いてはいけないと思ってくれたみたい。
私がおかしいとしたらそれは、吉良さんに原因がある…一択なわけで。
「…まぁいいや。今は何も聞かない!ネトフリでホラーでも観て、一緒に寝よ!」
ありがたい。
霧子…恩に着ます…!
携帯が壊れて、帰ったメッセージができなければ、吉良さんから連絡が来る可能性が高い。
それでも連絡が取れなければ…部屋に来ることも考えられる。
今は…吉良さんに会いたくない。
どういうことなのか、問い詰めないといけないのはわかってるけど、今は何も言いたくない。
シャットアウトしたい。
3年間のお付き合いの中で、初めて思うことだった。
やっぱり…私じゃ役不足だった。
恋人じゃなくて、セフレに落ちてた。
飽きられた…。
そんなことをもしも語られたら、ショックすぎて死んでしまう…。
だから今は、会いたくない。
最初のコメントを投稿しよう!