14.

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イラついた顔を隠そうとしない吉良さんに 怒られそうになって…思わず眉間にシワを寄せて睨み付けてしまった。 …何やってるんだろ、私…吉良さんに対して…。 吉良さんも初めての私の態度に驚いたのか、言葉を詰まらせた。 …私の反抗的な態度は止まらず、部屋の鍵を開けると、吉良さんが入るのを待たずにドアを閉めようとした。 さすがにおかしいと思ったらしい吉良さん。 瞬間的にドアを閉めさせまいと、手を伸ばす。 「…なんだよ。入れない気?」 「…はい。入らないでください」 ハッキリそう言った私を見て、一瞬ドアにかけられた手の力が緩んだ。 その隙を見てドアを閉め、ドアの向こうで吉良さんが声を張り上げた。 「お前携帯はどうした?繋がらないだろ?」 「壊れました…。しばらく治りません。新しいのも持ちません。連絡は、取れません」 それだけ言ってドアのそばを離れて、ベランダに出る。 しばらくして玄関からコンタクトを取るのをあきらめた吉良さんが、ベランダを見上げた。 …なんでそんなに悲しそうな顔をするの? 私も泣きそうになって、慌てて部屋に入った。 ……………… 吉良さんはその後も、私が帰るのを見計らったようにアパート前で待っていた。 …合い鍵を持ってるんだから、中で持ってたら絶対に捕まえられるのに。 そうはしないんだ…。 「…なんで携帯を持たないんだよ」 前を通り過ぎようとする私に声を掛ける。 「…持ちたくないから、です」 「俺からの連絡…うっとおしい?」 言われてとっさに顔を見上げてしまう。 …うっとおしいなんて、思うはずない。 3年間、ずっとあなたからの連絡を待ってた。 着信にはいつまでも慣れなくて、緊張してばっかりだったけど…でも、嬉しかった。 「…俺、なんかしたか?」 した…よね? 私が知らないと思ってる? バレてないって? それとも私の勘違い? だとしても、部屋に入れたのは許せない。 「…今は話したくないです」 「…わかった。俺もこれからしばらく、仕事が忙しくなる。…少し、距離を置こう」 距離を、置く。 下を向いた私の目に、革靴の足元が映る。 視線をあげていけば、何度も閉じ込められた胸…腕枕してくれた腕、繋いだ手…。 固く閉じられた唇は…何度も口づけられて、唯一私をモネ…って呼んでくれた。 二重の意志の強そうな目は、いじわるだったり、妖艶に光ったり… でも…。 こんなに悲しそうな吉良さんの目…見たことない。 目のふちいっぱいに溜まった涙が、まばたきと一緒に溢れた。 一粒…二粒…。ハラハラと… 「…モネ…」 「…距離を置きます」 伸ばしかけた腕をパタンと下げた。 「話ができるようになったら、うちへ来て」 待ってる…っと言って、吉良さんは立ち去った。 これで、会えなくなってしまった…。 もしかしたら、この間に…美麗ちゃんと親交を深めてしまうかもしれない。 でも、そうなるなら…それを吉良さんが望むなら、きっとそれでいいんだ。 きっと…そうだ。
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