16.

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0時過ぎてからも、私は卒論をまとめるために、机に向かった。 やがて初日の出が、カーテン越しに部屋の中を照らす頃…。 「…できた…!」 完璧ではないけど、何とか一通りまとめることは出来た。 ここから修正したり加筆したりして、予定通り1月半ばには提出できそう…。 椅子に座ったまま大きく伸びをして、ベランダに出て初日の出を拝む。 「…吉良さん、明けましておめでとうございます…。今年も1年、吉良さんにたくさん幸せが訪れますように」 あ…年が明けた瞬間も同じようなこと祈ったな…と気づいて1人、照れ笑いした。 会いたくないとか言いながら、ずっと吉良さんのことを考えていることに気づく。 「卒論、終わって…気持ちを整理して、落ち着いて…吉良さんに会わなくちゃ…」 そうつぶやいて、部屋に戻った。 徹夜で卒論を書いていた私は、眠くなっていつの間にかウトウトしていたようで…。 ふと目が覚めると、いつの間にか日が落ちはじめる時間になっていた。 「…元旦に行かないと、いけない気がする…」 服を着替えて、吉良さんからのプレゼントのコートを着る。 ネックレスと指輪もつけたままだったけど…このまま外出することにした。 向かったのは近所の小さな神社。 ここも毎年元旦は、初詣客で行列ができる。 今年は夕方だからか、人影もまばらだった。 境内に入って本殿にすすむと、少し先に背の高い男性の姿が見えた。 黒いロングコートをさらりと羽織った姿… 嘘… 吉良さん…? なんで…実家に帰らなかったの…? 思わずあたりを見渡してしまう。 もしかして、美麗ちゃんも一緒かな…って思ったから。 もしそうなら、気づかれないうちに離れたい…。 弱虫毛虫の自分が頭をもたげる… 吉良さんはあたりを気にすることなく、綺麗な所作で、手を合わせている。 誰とも一緒じゃないとしたら、ここで逃げるのはちょっとおかしい…。 私は静かに吉良さんの後ろ姿を見つめた。 礼をして振り返った吉良さん。 早速私に気がついた。 「…あ、あけまして…おめでとうございます」 ペコリ頭を下げる私に、おめでとう…と返してくれた。 「…あの、吉良さん…」 話そうとする私に優しく頷いて、先に参拝をするよう促してくれた。 『…神さま、ありがとうございます。ここで吉良さんに会わせてくれてありがとうございます。…今年も吉良さんが健康で、世界一幸せでありますように…』 …3回目の祈りだ。 神様も聞かないわけにはいかないだろう。 参拝が終わって後ろを向くと、コートのポケットに手を入れて、私をじっと見る吉良さんがいた。 …コートの裾が翻って…それだけでとっても素敵…。 顔が赤くなっていくのがわかる。 「モネ、ごめんな」 「…え?」 突然謝られて、驚いて見上げる。
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