16.

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「…あんまり、煽るなって…俺だってここんとこ、モネ不足なんだからな」 そのまま立ち上がってキッチンに行ってしまった。 「鍋でもやるか?海鮮があるぞ?」 パッと雰囲気を変えた吉良さん。 …美麗ちゃんのことも、聞かなくちゃ…。 「私も手伝います!」 キッチンに立つ吉良さんの横に立った。 「おー。じゃ、白菜を切ってみなさい」 「ハイッ!」 海鮮を取り出して、何やら準備しながら、私の手元を見ている吉良さん。 「…ちょーっ!そのまま切ったら指も落とすぞ?」 パッと包丁を取り上げられて、至近距離の吉良さんを見上げる。 私の目が、何かを訴えていたのか…吉良さんは私の後ろに回り込んで、両手を私の両手に添えてきた。 「白菜はまず、こう切って、葉と茎を分ける。そして茎を…」 頭の上から聞こえる…低いセクシーボイス…。 思わず見上げると、バチッと目が合ってしまった…。 「…吉良さん…」 「もぅ…モネの声は甘いんだよ…ゆーわくすんなって」 こめかみにチュウっと口づけてくれたけど、唇が降りてくる気配はない。 「…あの…吉良さん、ですよね?イチゴのケーキとか、お弁当も、おせちも…」 錦之助が持ってきたやつ… 背後にピッタリくっついて、白菜は最早、吉良さんによって切られてる。 私はドキドキしながら返事を待ってて、力が入りません… 「…バレたか」 耳元で聞こえる声… 「…なんで、そんな…」振り返って聞いてみると。 「距離を置こうって言ったのに…自分で持ってくなんて、ハズいだろ」 「だから…錦之助…?」 「先輩風、ビュービューに吹かせてやった」 錦之助、だから部屋に入らなかったんだ…。 「すごく優しい味がして、美味しかったです…」 「そ?モネの栄養になったんなら、よかった」 優しく笑う吉良さん。 この笑顔を見ると…ついボーッと見惚れてしまう、おバカな私…。 でも今度こそ、私たちがこんな風に拗れた原因について、聞かなきゃいけないのに。 お皿とお箸を準備して、テーブルにIH調理器を置き、ほぼ出来上がりの鍋を置く。 そして思い切って口を開いた。 「あの…この部屋に…」 言いかけたところで…玄関のチャイムが鳴って… …2人で顔を見合わせた。
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