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真夜中の公園でブランコを漕いでいる女。キイ……キイ……と音がするたび、黒いワンピースの裾と黒髪が揺れる。
いいカモだ。
「お嬢さん、こんな時間にどうしたんですか?」
声を掛けると女はブランコを漕ぐのをやめ、こちらに視線を向けた。
「私はお嬢さんなんかじゃありません。人妻です」
女の顔を見たとたん頭の中でファンファーレが鳴った。これは上玉だ。公園に照明はない。月も雲に隠れている。そんな暗闇の中、女は内側から光り輝いていた。
悪魔業を始めて幾星霜。こんな清らかな魂を見たことはない。欲しい、いや、必ず手に入れてみせる。
「女性が1人でこんな夜中、こんな所にいるなんて危険ですよ」
「あなたこそ。こんな夜中に黒い服を着ていたら車に跳ねられてしまいますよ」
黒装束は俺たちのユニフォーム。闇に紛れるためにわざと着ているのだ。
「ご心配ありがとうございます。これからは白い服を着るようにします。ああ、あなたもですよ」
自分のことより他人の心配をするとは。まさに善人。声を掛けたのが俺じゃなかったら今頃どうなっていたことやら。
「物騒なので家まで送って行きます。何処ですか?」
こんな時間に公園にいるのだ。帰れない理由があることは重々承知。
「今夜は……帰れそうにないんです」
ほら来た。しかしそんなことを見ず知らずの男に言うなんて無防備もいいところだ。勘違い男だったら誘ってると思うだろう。
「でもこんな所にいたら虫に刺されてしまいますよ」
「虫さんの栄養になるのなら、それもいいです」
虫をも殺さぬ優しさか。これこそ上玉。他の悪魔に取られる前に俺のモノにしなければ。
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