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「あなたこそ何故こんな夜中に?」
向こうから聞いてくれるとは話が早い。
「実は、どうしても契約したい案件がありまして」
「営業のお仕事をされてるんですか?」
「まあ、そんな所です」
俺も隣のブランコに腰をおろした。よく見ると魂だけではなく顔も美しかった。切れ長でどこまでも透き通った瞳。上品に通った鼻筋。愛情の深そうな厚い唇。まあ外見なんて俺には関係ない。
「営業って大変だと聞きます。どうぞご無理なさらないでください」
「ありがとうございます。あなたは何のお仕事を?」
「私は……」
「ああ、申し訳ありません。会ったばかりの方に職業を聞くなんて。失礼しました」
俺の言葉に女はふっと笑みをこぼした。
「お気遣いありがとうございます」
女が着ている物は、ワンピースというよりドレスに近かった。上半身はレースに覆われ、スカート部分は光沢のある滑りの良さそうな生地だ。胸元はレースの黒薔薇があしらわれ、上品に隠している。しかし背中は腰まで開いていて肩甲骨が丸見えだ。それに美しい顔も魂も覆い隠すような厚化粧。水商売の女なのだろう。
「お仕事の帰りですか?」
「まあ、良くお分かりで。さすが営業さんですね」
その格好を見れば誰でも分かる。しかし俺にはそれ以上の能力がある。人間の頭の中なんて手に取るように分かるんだ。
「……それは酷い」
「え?」
「旦那さん、家に女性を連れ込んでいるんですね」
「そんな事まで分かるんですか?」
目をまん丸くして驚く顔が何とも可愛い。こんな上玉を裏切るなんて、よっぽどバカな男なのだろう。
「仕返しをしてやりましょう。キツイお仕置きを」
「そんな事……」
「私に任せてください。お望みのまま、何でもさせていただきます。全裸で東京タワーのてっぺんに縛り付けるとか、アフリカのサバンナに置き去りにするとか。そうだ、体中の穴という穴から血を吹き出させるのはどうですか?」
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