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女は目を三角にしていた。お気に召さなかったようだ。
「そんな事、可哀想です」
「可哀想なのはあなたでしょう? あなたという妻がいながら他の女を家に連れ込むなんて。だからあなたは家に帰れないんでしょう? それに旦那さんはあなたにだけ働かせて自分は好き放題遊び歩いている。そんな男のどこが可哀想なんですか」
女は掴んでいたブランコの鎖を離すと、膝の上に両手を乗せ俯いた。
「そんな人だから、私がついてなきゃダメなんです。あの人は1人では生きていけないんです」
出た出た。私がついてなきゃ、私が支えなきゃ、私があの人を真人間に変えます。そう言って幸せになれた女なんて1人もいない。真人間になった男なんて見たことも聞いたこともない。女が甘やかせば甘やかすほど男は調子に乗って、ますます愚かになるんだ。それも分からない女はもっと愚かだ。
「私はあなたに幸せになって欲しいんです」
「私なんか、幸せになる価値のない女です」
「何を言っているんですか。人間は幸せになるために生まれてきたんです。あなたの優しさは、もっと困ってる人に差し伸べるべきです。世の中には食べる物も住む所もなくて辛い思いをしている人がたくさんいます。親に虐待されている子どもも、学校でイジメを受けている子どもも、体が不自由で動くことも話すこともできないお年寄りもいます。そんな人たちを放っておくんですか? 健康で精力のあり余っている男の世話をしている場合じゃありません」
女は目を見開き口をポカンと開け、呆然と俺を見ていた。そして突然桜色の唇をキュッと結ぶと瞳をキラキラ輝かせた。
「あなたは天使様ですか?」
「へ?」
悪魔に向かって天使とは。確かに堕天使ではあるが。
「あなたはとても視野が広く人類愛に溢れています。それに比べて私は狭い視野しか持ち合わせていません。当然そのような辛い思いをされている方々がいることは知っています。でも見て見ぬ振りをしていました。私になんか何もできっこない、私は役立たずで気の利かない愚か者だから」
どうせ旦那にそう言われて洗脳されているんだろう。ヒモ男の常套句だ。そんなお前と結婚してやるのは俺くらいだ、感謝して尽くせ。お前に魅力がないから他の女に目が行くんだ。浮気はお前のせいだ、とか何とか言われてるんだろう。自己肯定感の低い女は簡単に洗脳されちまうからな。
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