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「あなたは役立たずでも愚か者でもありません。あなたは人が幸せになると自分も幸せを感じるんじゃないですか?」
「はい。人が笑顔になると嬉しいです」
「本当の愚か者とは、人が幸せになると憎く思うものです。他人の幸せを羨み、妬み、その幸せを壊したくなるのです。でもあなたは違う。あなたは心底優しい人です」
「そんなこと……」
さんざん蔑まれてきた女だ。目を覚まさせるには持ち上げてやればいい。
「そうです、私は天使です。あなたを救いにきました」
「まあ……!」
女はブランコから立ち上がると地面にひざまずき手を組んだ。
「天使様……有り難き幸せです」
信じた? 嘘だろ? そんな簡単に天使を信じる人間がいるのか? それほどこの女は純粋なのだ。疑うことを知らない幼子のような魂なのだ。欲しい、この魂が欲しい……!
「さあ、困っている人を救うのです。そのためなら私は協力を惜しまない。何なりと望みを言いなさい」
その代償として魂はいただくけどな。
「本当ですか? いえ、天使様を疑うなんて。申し訳ありません」
「いえ、いいんです。そうだ、先ずは契約をしましょう」
「契約?」
「はい。あなたの望みは何でも叶えてあげます。その代わりあなたが死んだら、あなたの魂を私がもらいます」
「魂を?」
「その美しい魂を天国へと連れて行きます」
「天国? 私を天国に連れて行ってくださるんですか?」
「はい。神の元へ」
悪魔の天国は地獄だ。悪魔の神は魔王様だ。死んだら連れてってやるよ。俺の腹の中に入れてな。
「有り難き幸せです。仰せの通りに」
俺は懐から羊皮紙と羽ペンを取り出した。
「さあ、ここに名前と望みを書いてください」
「はい」
女は遠慮がちに、しかし丁寧に書いていた。やった! これでこの女の魂は俺のものだ! 何という幸せだ。魔王様だってこんな綺麗な魂を持っていないだろう。これは魔界一の逸品だ。早くみんなに自慢したいものだ。
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