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「書けました」
はにかんだ笑顔で、女は契約書を俺に寄越した。
ヤッタ、ヤッタ! とうとう手に入れた。
「天使様!?」
「おっと」
嬉しすぎて隠していた漆黒の羽が飛び出てしまった。しかしもうどうでも良い。契約しちまったんだ。後から「悪魔だったんですか!?」なんて言われても悪魔界にクーリングオフはない。契約は絶対だ。覆す事はできない。
「バレちまったら仕方がない。これが俺の正体さ」
俺は背中の真っ黒な羽をバタつかせた。その羽ばたきでブランコがキイ、キイと揺れた。
あとは女の望みが叶えば契約完了。この羊皮紙には俺の魔力を封じ込めてある。書かれた望みは勝手に実現するようになってるってわけだ。さて、女は何を望んたんだろう。
「大変! 天使様の羽が……」
「え?」
振り向いて背中の羽を確認する。なんてこった! どんどん抜けている。黒い羽毛がふわふわと風に舞い、地面に落ち葉のように降り積もっていく。どうしちまったんだ!?
「まあ、何と神々しい……」
女は再びひざまずき俺を拝んだ。神々しいだと?
俺は羽を広げた。バサッとひと振りすると羽毛が飛んできた。
「し、白い……」
「それが天使様の望みだったんですね」
望み? 俺は慌てて契約書を読んだ。
『天使様の願いが叶いますように』
この女、どこまでお人好しなんだ。俺の望み? 俺は天使になりたいと望んでいたのか? まさか……。
俺は綺麗な魂が好きだ。純粋で素直な魂が大好きだ。悪魔だからそれを食らう。だが、本当はずっと眺めていたい。世界中が綺麗な魂だけならさぞ人間界は美しいだろう。
俺もそんな綺麗な魂になりたいーー
何度も望んだが叶えられなかった。悪魔にも叶えられない望みをこの女が叶えるとは。
俺は地面にひれ伏した。溢れ出るどす黒い涙は止まらなかった。俺の中に溜まりに溜まった黒い物全てを、吐き尽くすように。
〈終〉
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